王将戦の指し込み制とは？

王将戦の指し込み制：その歴史と意義、そして賛否両論

王将戦は、毎日新聞社が主催する将棋のタイトル戦であり、名人戦と並ぶ二大タイトルの一つとして高い prestige を誇ります。その中でも特にユニークな制度として知られているのが「三番手直りの指し込み制」です。これは七番勝負において、どちらかの棋士が3勝の差をつけた時点で、以降の対局にハンデを設けるという、他の棋戦には見られない独特のルールです。本稿では、この指し込み制の歴史的背景、その意義、そして賛否両論を含めて考察していきます。

王将戦は、1950年に「永世称号」を巡る毎日新聞社と読売新聞社の対立を背景に創設されました。当時、読売新聞社が主催する名人戦では、タイトルを一定回数獲得すると「永世名人」の称号が与えられていました。毎日新聞社はこれに対抗し、独自の永世称号を設けるために王将戦を創設したのです。そして、この新たな棋戦を盛り上げるための目玉として考案されたのが、指し込み制でした。

指し込み制の導入には、いくつかの狙いがありました。まず第一に、一方的な展開になりがちな七番勝負において、劣勢の棋士にも逆転のチャンスを与え、最後まで勝負の行方が分からないスリリングな展開を作り出すことです。3勝差がついた時点で、挑戦者は香落ち、二枚落ち、そして角落ちと徐々にハンデが大きくなるため、たとえ3連敗からでも逆転優勝の可能性が残されます。これは、ファンにとってはもちろん、対局する棋士にとってもモチベーションを維持し、最後まで全力を尽くす原動力となるでしょう。

第二に、指し込み制は、様々な棋力差における対局を実現することで、将棋の奥深さを探求する機会を提供します。平手での対局とは異なる戦略や戦術が求められるハンデ戦は、棋士の力量を試す絶好の場となります。また、観戦者にとっても、普段は見られないような珍しい局面や、ハンデを克服するための工夫など、新たな発見があるはずです。

しかし、この指し込み制には批判的な意見も存在します。最大の批判は、タイトル戦の価値を損なう可能性があるという点です。ハンデ戦での勝利は、純粋な実力での勝利とは異なるため、タイトル獲得の価値が薄れると考える人もいます。また、指し込みによって勝負が決着した後も対局を続けることに疑問を呈する声もあります。すでに勝負が決まっているにもかかわらず、形式的に対局を続けることは、棋士にとっても負担となる可能性があり、また、観戦者にとっても興醒めとなる可能性が指摘されています。

近年では、指し込み局が行われることは稀になっており、2023年現在、直近の指し込み局は2000年の第49期王将戦第7局まで遡ります。時代の変化とともに、指し込み制の意義や妥当性についても再考が必要かもしれません。

結論として、王将戦の指し込み制は、棋戦を盛り上げ、将棋の奥深さを探求する上で一定の役割を果たしてきたと言えるでしょう。しかし、その一方で、タイトル戦の価値や棋士への負担といった問題点も抱えています。今後、王将戦がその伝統を守りつつ、どのように進化していくのか、注目が集まります。