イギリスの医療は無料ですか?

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イギリスでは、国民保健サービス(NHS)という制度があり、ほとんどの病院がこれに所属しています。原則として、NHSの病院やクリニックを受診する際の費用は無料です。日本の国民皆保険制度と似ており、GDPに占める医療費の割合も同程度となっています。

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イギリスの医療は無料? - 現実と制度の複雑な関係

イギリスの医療制度は、世界的に見て独特な位置を占めています。国民保健サービス(NHS: National Health Service)の存在は広く知られており、「無料」というイメージが定着していますが、実際にはその実態は複雑で、単純に「無料」と一言で片付けることはできません。本稿では、NHSの概要と、その「無料」というイメージの裏側にある複雑な現実について、詳細に考察します。

まず、NHSは、原則として、医療サービスの利用に対して直接的な費用を請求しません。つまり、診察、検査、入院、手術など、多くの医療行為は、患者が費用を支払う必要がありません。これは、日本の国民皆保険制度と似ており、税金によって財源を賄う点が共通しています。両国のGDPに占める医療費の割合も近似しており、国民への医療アクセスを確保するという点で、同様の目標を追求していると言えるでしょう。

しかし、NHSが完全に「無料」であると誤解するのは危険です。無料なのは、あくまでも基本的な医療サービスです。具体的には、GP(General Practitioner、かかりつけ医)による診察、救急医療、入院治療などが含まれます。しかし、これらにも例外は存在します。例えば、処方箋薬は、一部を除き、患者が薬局で費用を支払う必要があります(ただし、高齢者や低所得者など、特定の条件を満たす場合は無料または割引が適用されます)。また、歯科治療や眼鏡、補聴器などの費用も、基本的に自己負担が求められます。

さらに、NHSでは待ち時間が長いという問題も深刻です。急患でない限り、専門医の診察を受けるまでには数週間から数ヶ月かかることも珍しくありません。このため、迅速な治療を必要とする場合や、より快適な環境での治療を希望する場合は、民間の医療機関を利用することを選択する人がいます。民間の医療機関は、NHSと比べて待ち時間が短く、設備も充実していることが多い反面、高額な費用がかかります。そのため、経済的な余裕のある層だけが利用できるという現状も存在します。

また、NHSの財源である税金は、国民全体の負担によって賄われています。高額な医療費が必要となった場合、個人の経済的な負担は直接的には軽減されますが、間接的には税金を通じて負担していることになります。これは、日本の国民皆保険制度と同様の側面であり、国民全体の連帯責任に基づいたシステムと言えます。

結論として、イギリスの医療制度は、無料で提供される部分と、自己負担が必要となる部分の両方が存在する複雑なシステムです。「無料」というイメージは、国民の多くにとって魅力的であり、社会的なセーフティネットとしての役割を果たしています。しかし、そのシステムの持続可能性や、サービスの質、アクセス可能性といった課題についても、常に議論が続けられています。単純に「無料」と捉えるのではなく、その仕組みや限界を理解することが、イギリスの医療制度を正しく理解する上で不可欠です。