高齢者が救急搬送される理由トップは何ですか？

高齢者の救急搬送、その背景にある深刻な現実

高齢化が進む日本において、高齢者の救急搬送件数は年々増加の一途を辿っています。単なる高齢化現象として片付けるには、その背景には複雑で深刻な問題が潜んでいるのです。 多くの報道では「転倒」が主な原因として挙げられますが、その事実の裏側にあるメカニズム、そして転倒以外の要因、さらには救急搬送に至るまでの過程を深く掘り下げることで、高齢者の健康維持、そして社会全体の安全保障を考える上で重要な知見が得られます。

東京消防庁のデータ（2015～19年）が示すように、65歳以上の救急搬送者の約8割が日常活動中の転倒による事故です。 この数字は、高齢者の生活空間がいかに危険に満ちているか、そして彼らの身体機能がいかに低下しているかを如実に表しています。 しかし、「転倒」という単一の言葉からは、その背景にある様々な要因が読み取れません。

まず、転倒の原因は多岐に渡ります。 筋力低下、バランス能力の衰え、視覚障害、認知機能の低下などは、いずれも転倒リスクを高める主要因です。 加齢に伴う生理機能の低下は避けられないものですが、それに加え、生活環境の問題も無視できません。 段差、滑りやすい床、照明不足など、日常的な生活空間の危険箇所が転倒を招くトリガーとなるケースは少なくありません。 さらに、服薬による副作用、持病の悪化なども、転倒リスクを増加させる重要な要素です。例えば、血圧の急激な低下は立ちくらみを誘発し、転倒につながります。

転倒による負傷は、骨折や打撲といった外傷にとどまりません。 特に、高齢者においては、転倒が原因で脳出血や脳梗塞といった重篤な疾患を発症する場合もあります。 一見軽微な転倒であっても、内臓損傷や大腿骨頸部骨折など、生命に関わる深刻な事態を招く可能性があるのです。 人口動態統計調査で示されている、転倒・転落・墜落事故による死亡者の9割以上が65歳以上であるという事実は、このリスクの大きさを改めて示しています。

転倒以外にも、心疾患、脳血管疾患、肺炎といった疾患による救急搬送も高齢者においては非常に多いです。 これらの疾患は、年齢を重ねることで発症リスクが高まり、かつ重症化しやすいという特徴があります。 迅速な医療介入が必要不可欠であるため、救急搬送に至るケースが頻発します。

高齢者の救急搬送問題の解決には、多角的なアプローチが必要です。 個々人の健康増進のための運動療法やバランス訓練、生活環境の安全化、早期発見・早期治療のための健康診断の積極的な受診などが不可欠です。 さらに、地域包括ケアシステムの構築、在宅医療の充実なども、救急搬送件数の増加を抑制する上で重要な役割を果たします。

高齢者の尊厳と安全を守り、健康寿命を延ばすためには、社会全体で高齢者への理解を深め、より良い支援体制を構築していくことが急務と言えるでしょう。 単なる数字として捉えるのではなく、一人ひとりの高齢者の生活背景、身体状況を理解し、適切な支援を提供していくことが、真の課題解決に繋がるのです。