妻に言われて嬉しかった言葉は？

妻の言葉は、時として人生の羅針盤となる。日々の喧騒に疲れた心に、温かい光を灯してくれることもある。私にとって、妻からかけられた言葉の中で、特に心に響いたもの、そして今でも大切にしている言葉を幾つか紹介したい。それは華々しい言葉ではなく、些細で、日常の中に溶け込んでいるものばかりだ。

まず一つ目は、「今日はゆっくり休んでいいよ」。仕事で疲弊し、心身共にボロボロだったある夜のことだ。目標達成に向けて、徹夜続きの日々が続いていた。その日の夕食後、何も言わずソファに沈み込むと、妻は何も言わず私の隣に座り、そっと頭を撫でながら、この言葉を囁いた。その一言に、それまでの疲労が一気に流れ出ていくような感覚を覚えた。それは単なる休息の許可ではなく、「あなたの頑張りを理解している」「あなたは休むことを許される」という、深い愛情の表明だった。言葉の重みは、その時の状況、そして妻の優しさによって、何倍にも増幅されたのだ。華やかな褒め言葉よりも、この「ゆっくり休んでいいよ」という、静かで穏やかな言葉こそが、私にとって最高の慰めになった。

二つ目は、「あなたがいてくれるだけで、十分だよ」。これは、私が転職活動に苦戦していた時期の言葉だ。希望する仕事が見つからず、自己肯定感が著しく低下していた時、妻はいつも私の話を静かに聞いてくれた。そして、私の不安を察知するかのように、この言葉を添えてくれた。成功や結果ばかりが求められる社会において、この言葉は、まるで砂漠のオアシスのような存在だった。仕事で得られる成果や評価だけが、私の価値ではないと改めて気づかせてくれたのだ。妻にとって、私が「そこにいる」こと自体が、大きな意味を持つと知った瞬間だった。それまで、成果主義の社会に染まり、自分を客観的に評価することに固執していた自分を反省し、家族との時間を大切にしようという気持ちになった。

三つ目は、「大丈夫、一緒に乗り越えようね」。これは、数年前に私たちが不妊治療に苦しんでいた時の言葉だ。何度体外受精を繰り返しても、結果は失敗に終わり、精神的に追い詰められていた時期だった。医師からの説明、薬の副作用、そして期待と失望の繰り返し。その度に、私は無力感と絶望に苛まれた。そんな時、妻はいつも私の傍にいて、涙を拭い、優しく抱きしめてくれた。そして、この言葉で、私の心を支えてくれた。この言葉は単なる励まし以上のものだった。それは、「一人じゃない」という確かな安心感であり、どんな困難も一緒に乗り越えていこうという、強い意志の表れだった。結果として、その後妊娠に至ることはなかったが、この言葉のおかげで、私は諦めずに前を向くことができた。

妻からかけられたこれらの言葉は、どれも特別な状況下で発せられたものではない。むしろ、日常の中に溶け込んだ、ごく普通の言葉たちだ。しかし、その言葉一つ一つに込められた愛情と信頼は、私の人生を支え、前へ進む力を与えてくれる。これからも、妻の言葉に耳を傾け、感謝の気持ちを忘れずに生きていきたいと思う。