結婚しても本籍は別々でもいいですか？

結婚後も本籍を別々にしたい。そんな希望を抱く方は少なくないでしょう。しかし、日本の戸籍制度において、結婚した夫婦が完全に「別々の本籍」を持つことは、残念ながらできません。冒頭で述べたように、結婚後は夫婦で一つの戸籍に属することになり、新しい本籍地は自由に選択できますが、その戸籍は共有のものとなります。つまり、夫と妻がそれぞれ異なる本籍を持つという状態は、離婚時以外には存在しないのです。

では、なぜ「本籍を別々にしたい」という希望が生まれるのでしょうか？その背景には、様々な事情が考えられます。例えば、プライバシーの保護です。特に、インターネットの普及によって個人情報が容易にアクセスできる現代において、自分の本籍地が公に知られることを不安に感じる方もいるでしょう。結婚相手の実家近くへの転居を伴う結婚の場合、従来からの本籍地を維持することで、故郷との繋がりや、実家との関係性を維持したいという思いも背景にあるかもしれません。また、相続や財産管理において、複雑な状況を避けるため、本籍地を別々にしたいと考えるケースもあるかもしれません。

しかし、日本の戸籍制度は、家族単位で戸籍を管理するシステムです。これは、家系を明確に把握し、相続や親族関係をスムーズに処理するための制度設計となっています。そのため、結婚後、夫婦が別々の戸籍を持つことは、制度上認められていません。戸籍の目的が、個人のプライバシー保護よりも、家族単位での家系管理にあることが、この制度の根幹をなしているのです。

では、本籍地を別々にしたいという希望を、どうすれば実現できるのでしょうか？完全な「別々の本籍」は不可能ですが、現実的な代替案としては、以下の様な方法が考えられます。

まず、新しい本籍地を選択する際に、どちらか一方の本籍地、あるいは全く新しい地域を選択する事が可能です。これは、夫婦間の合意によって自由に決められます。例えば、お互いの実家から離れた、新たな街を本籍地にすることで、どちらかの実家への偏りを避け、公平性を保つことができます。また、居住地とは異なる本籍地を選択することも可能です。居住地は頻繁に変更される可能性がありますが、本籍地は比較的安定した住所として機能します。

さらに、重要なのは、本籍地と居住地を混同しないことです。本籍地は戸籍上の住所であり、居住地とは必ずしも一致する必要はありません。居住地は自由に移動できますが、本籍地の変更は手続きが必要です。そのため、本籍地をあまり頻繁に変更する必要はなく、生活の拠点である居住地とは別に、落ち着きのある場所を本籍地として選択することで、プライバシーの保護にも配慮できます。

結論として、結婚後、完全に別々の本籍を持つことはできません。しかし、新しい本籍地を慎重に選択し、本籍地と居住地を区別することで、プライバシーや家族関係への配慮をしながら、結婚生活を送ることが可能です。 戸籍制度の目的と、自身の希望を理解した上で、夫婦で話し合い、最適な方法を選択することが重要です。 専門家である戸籍担当者や弁護士などに相談することも、より良い解決策を見つける上で有効な手段となるでしょう。