電線の電圧はなぜ6600Vなのか？

日本の電力系統において、6600Vという電圧が未だに一部地域で見られるのは、歴史的な経緯と技術的な制約、そして経済性のバランスの上に成り立っています。単に「余裕を見て10%増し」という説明だけでは、その背景にある複雑な要素を理解することはできません。本稿では、6600V送電の採用に至った理由を、より深く掘り下げて考察します。

まず、初期の送電技術を理解することが重要です。電力系統が整備され始めた明治時代から昭和初期にかけては、送電線に使用される銅線やアルミ線の導電率、更には絶縁材料の性能が現在と比較してはるかに劣っていました。長距離送電を行う場合、電圧降下は大きな問題となりました。電流が流れると、導線自身の抵抗によって電圧が低下し、送電端と受電端で電圧差が生じます。この電圧降下は、送電線の長さや太さ、電流値に比例して大きくなります。そのため、受電側に必要な電圧を確保するためには、送電側の電圧を高く設定する必要があったのです。

6000Vという電圧は、当時の需要を満たすために必要な電圧と推測されます。工場や街灯などに電力を供給するためには、ある程度の電圧が必要であり、6000Vはその目標値だったのでしょう。しかし、単純に6000Vで送電すれば、前述の通り、電圧降下によって受電端での電圧が不安定になり、機器の故障や性能低下につながるリスクがありました。そこで、電圧降下を見越して、余裕を持たせる必要が生じます。

10%の余裕、すなわち6600Vという値は、単なる「安全マージン」ではありません。当時の技術力と経済性を考慮した、最適なバランス点を模索した結果だと考えられます。10%以上の余裕を持たせれば、より安定した送電が可能になりますが、その分、設備コストが増大します。より高電圧に対応できる絶縁体や、より太い導線が必要となるからです。逆に、余裕が少ないと、電圧降下によるトラブルリスクが高まります。

さらに、絶縁技術の進歩も重要な要素です。高電圧送電を行うには、電圧に耐えうる絶縁材料が不可欠です。当時の絶縁技術は未発達であり、高電圧ほど絶縁が困難で、コストも高騰しました。6600Vという電圧は、当時の絶縁技術で実現可能な範囲でありながら、経済的に許容できるレベルのバランスを見出した妥協点だったと言えるでしょう。

現在では、より高効率な送電技術と高度な絶縁材料の開発により、6600V送電は徐々に減少傾向にあります。しかし、一部地域では未だに6600V送電が維持されているのは、既存設備の更新コストや、地域特性など様々な要因が絡み合っているためです。設備の交換には多大な費用と時間がかかり、経済的な観点から、現状維持を選択するケースも多いでしょう。

このように、6600Vという電圧は、単なる数値ではなく、当時の技術レベル、経済状況、そして安全性を考慮した上で決定された、歴史的、技術的な妥協点なのです。その背景には、明治時代から昭和初期にかけての日本の電力インフラ整備における試行錯誤と、技術革新の歴史が刻まれています。 単なる数値の背後にある、複雑な歴史的文脈を理解することで、日本の電力システムの進化をより深く理解することができるでしょう。