Wi-Fi 6ではWPA3は必須ですか？

Wi-Fi 6とWPA3：必須の関係性と、その裏にある複雑さ

Wi-Fi 6（IEEE 802.11ax）の登場は、無線LANの世界に大きな飛躍をもたらしました。高速化と高効率化が謳われる一方、セキュリティ面も大きく改善されました。その中心にあるのが、WPA3（Wi-Fi Protected Access III）です。多くの情報源では「Wi-Fi 6はWPA3必須」と断定的に述べられていますが、実際はもう少し複雑な事情があります。本稿では、その真実に迫り、誤解を解き明かしていきましょう。

まず結論から言えば、「Wi-Fi 6対応機器はWPA3に対応すべきであり、多くの場合、実際に対応している」と言えます。しかし、「必須」という言葉には法的強制力や規格上の絶対的な要件という意味合いが含まれるため、完全に正しい表現とは言えません。Wi-Fi 6の規格自体には、WPA3の採用を強制する記述は存在しないのです。IEEE 802.11ax規格書を紐解いても、暗号化方式についてWPA3を必須とする明確な記述は見当たりません。

ではなぜ「Wi-Fi 6＝WPA3」という認識が広く定着しているのでしょうか？それは、Wi-Fi 6の目指す「より安全で信頼性の高い無線通信」という目標と、WPA3が持つ高度なセキュリティ機能が密接に関連しているからです。WPA2の後継であるWPA3は、従来のWPA2に比べて飛躍的にセキュリティ性能が向上しています。具体的には、以下の点が挙げられます。

• SAE（Simultaneous Authentication of Equals）： 従来のPSK（Pre-Shared Key）方式に比べて、辞書攻撃に対する耐性が高まりました。これは、パスワードの推測を試みる攻撃手法に対して、より強固な防御力を提供します。
• 強化された保護： WPA3は、不正アクセスやデータ漏洩に対する防御機構を強化し、より堅牢なセキュリティを実現しています。特に、公開無線LANにおいては、より安全な接続を提供します。
• 完全な前方秘匿性（Perfect Forward Secrecy）： セッションキーが漏洩しても、過去の通信内容が解読されるリスクを低減します。

これらのメリットを享受するために、Wi-Fi 6対応機器メーカーは、自社の製品にWPA3を積極的に搭載する傾向にあります。消費者のセキュリティ意識の高まりも、この傾向を後押ししているでしょう。結果として、市場に出回るWi-Fi 6対応機器のほとんどがWPA3に対応しているのが現状です。

しかし、一部の特殊な用途や、古い機器との互換性を考慮した製品においては、WPA2もサポートしている場合があります。そのため、Wi-Fi 6ルーターを購入する際には、WPA3に対応しているかどうかを確認することが推奨されますが、それが「必須」というわけではない点に注意が必要です。

結論として、Wi-Fi 6とWPA3は密接に関連していますが、規格上はWPA3の採用は必須ではありません。しかし、セキュリティの観点から、WPA3対応機器を選ぶことが強く推奨され、市場のほとんどがそれを満たしていると言えるでしょう。 購入時には、製品仕様をしっかりと確認し、自身のセキュリティニーズに合った機器を選ぶことが重要です。 単に「Wi-Fi 6」というラベルに惑わされることなく、セキュリティ機能についても十分な知識を持つことが、安全な無線LAN環境構築の鍵となります。