「三番手直り」とはどういう意味ですか?

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王将戦における「指し込み三番手直り」とは、一方の棋士が3連勝または4勝1敗で3勝差をつけた場合、王将位を獲得すると同時に、次局で勝利者が敗者に香落ちで対局するという特別なルールでした。これは、平手での対局が主流だった時代には、非常に厳しい条件とみなされていました。

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「三番手直り」:消えゆく記憶と、その背景にある挑戦

「三番手直り(さんばんてなおし)」という言葉を聞いて、すぐに意味を理解できる人は、将棋ファンの中でもかなりベテランの域に達しているかもしれません。現代将棋ではほとんど耳にしない、この少し古風な言葉は、かつての王将戦において、非常に特殊な、そして挑戦的な状況を示すものでした。

端的に言えば、「三番手直り」とは、王将戦七番勝負において、一方の棋士が圧倒的なリードを奪った場合に適用された、特別なルールのことです。具体的には、どちらかの棋士が3連勝するか、あるいは4勝1敗で3勝差をつけた場合、その時点で王将位が確定し、さらに次の一局は、勝利者が敗者に対して香落ちで対局するというものでした。

しかし、なぜこのようなハンディキャップを課すルールが存在したのでしょうか? それは、当時の将棋界の時代背景と密接に結びついています。現代将棋では、プロ棋士同士の対局は基本的に平手(互角)で行われますが、かつては段位や実力差に応じて、駒落ち(ハンディキャップをつけて対局すること)が行われることが一般的でした。王将戦というタイトル戦においても、その名誉にふさわしい実力差を示す、あるいは、圧倒的な勝利を収めた棋士が、さらにその実力を証明するために、香落ちでの対局が設けられたのです。

「三番手直り」が適用される状況は、まさに一方的な展開であり、勝利者にとっては王将位獲得に加えて、香落ちで勝利するという二重のプレッシャーがのしかかります。一方、敗者にとっては、王将位を失った上に、香落ちで屈辱を味わう可能性があり、まさに崖っぷちに立たされた状態と言えるでしょう。

このルールは、圧倒的な実力差がある場合にのみ適用されるため、非常に稀なケースであり、実際には数えるほどしか記録されていません。しかし、その存在は、当時の将棋界における実力主義、そして、勝利者にはさらなる高みを目指すことを求める気風を色濃く反映しています。

現代将棋では、実力差が拮抗していることが多く、平手での熱戦が繰り広げられるのが一般的です。そのため、「三番手直り」のようなハンディキャップを課すルールは姿を消しましたが、その背景には、かつての将棋界が抱えていた挑戦、そして、強者に対する敬意と挑戦の精神が込められていたことを、私たちは忘れてはならないでしょう。

「三番手直り」という言葉は、単なる過去のルールを示すだけでなく、将棋の歴史、そして、その時代ごとの価値観を映し出す鏡でもあるのです。 今ではほとんど使われなくなった言葉ですが、その意味を知ることで、将棋の奥深さをより一層感じることができるかもしれません。