「来訪」は上司に使ってもよいですか？

「来訪」は上司に使ってもよいですか？答えは、シンプルに「いいえ」です。日本語のビジネスシーンにおいて、「来訪」は社外の人物、特に顧客や取引先といった外部関係者に対して用いる表現です。上司や同僚といった社内の人間に対して「来訪」を使うのは、適切ではありません。その理由を詳しく見ていきましょう。

まず、「来訪」という言葉自体が、ある種のフォーマルさを伴い、距離感を生み出します。社外の人物に対しては、そのフォーマルさが丁重な印象を与えます。しかし、社内、特に上司や同僚に対しては、その距離感が逆に不自然な印象、あるいは敬意を欠いた印象を与えてしまう可能性があります。親しい間柄であれば尚更です。

例えば、「社長が来訪されます」という文は自然に聞こえます。これは、社長という外部の人物（仮に外部からの招聘者だった場合）に対する表現として適切だからです。しかし、「田中部長が来訪されます」と表現した場合、奇妙に聞こえるでしょう。田中部長は社内の人間であり、来訪という言葉を使う必要性は全くありません。もっと自然で親近感のある表現を選ぶべきです。例えば、「田中部長が来られます」「田中部長がいらっしゃいます」「田中部長が来社されます」などが適切です。

さらに、「ご来訪される」という表現は、二重敬語となり、避けるべきです。 「来訪」自体がすでに丁寧な表現であり、それに「ご」を付けることで、敬語を重ねることになります。二重敬語は、日本語の敬語のルールに反するだけでなく、相手に不自然な印象を与え、かえって失礼に当たる可能性も否定できません。ビジネスシーンでは、正確で洗練された言葉遣いが求められるため、二重敬語の使用は厳に慎むべきです。

代わりにどのような表現を使えば良いのでしょうか。上司や同僚が職場に来る際には、状況に応じて様々な表現が適切です。

• 「〇〇部長がいらっしゃいます」：丁寧で一般的な表現です。
• 「〇〇さん、来られました」：親しい間柄であれば、このような表現も可能です。
• 「〇〇さんが来社されました」：よりフォーマルな場や、来訪の目的が重要な場合に適しています。
• 「〇〇部長が来られます」：予定されている来訪について話す際に使えます。

重要なのは、相手との関係性と状況を考慮し、適切な表現を選ぶことです。「来訪」は便利な言葉ですが、その使用範囲を理解し、社内の人間に対しては、より自然で親しみのある表現を選択することが、良好な人間関係を築く上で不可欠です。 言葉選びひとつで、相手に与える印象は大きく変わります。常に丁寧さを心がけつつ、状況に合わせた適切な表現を用いるようにしましょう。 過剰な敬語は、かえって相手に不快感を与えてしまう可能性があることを、常に意識することが大切です。 言葉遣いは、ビジネスにおけるコミュニケーションの基本であり、日々の研鑽が求められます。