舞台の見物席から見て右側を何といいますか?

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日本の伝統演劇では、客席から見た舞台の右側を「上手(かみて)」、左側を「下手(しもて)」と呼びます。一方、外国では「ライトハンド」と「レフトハンド」という呼び方をし、こちらは舞台から見た向きとなります。

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舞台の見物席から見て右側を何と言うか、という一見シンプルな問いの中に、日本の伝統芸能の奥深さと、東西の文化の違いが垣間見えます。日本では「上手(かみて)」、西洋では「舞台向かって右/ライトハンド(Stage Right)」と、呼び名だけでなく、その視点までもが異なっているのです。

なぜ日本では「上手」と呼ばれるのでしょうか?その起源は、能や歌舞伎といった伝統芸能にあります。これらの舞台には、鏡板と呼ばれる背景があり、舞台奥の上手側に神棚が設けられていました。神聖な場所に近い側を「上手」と呼ぶようになったと言われています。また、能舞台には橋掛かりがあり、役者は上手側から登場することが多かったため、重要な役者が現れる場所として「上手」とされたという説もあります。

一方、人形浄瑠璃の文楽では、人形遣いの主遣いが舞台下手側に位置するため、人形の視線、すなわち観客にとっての舞台右側は「下手」となります。しかし、観客から見て右側は、浄瑠璃の太夫と三味線奏者が位置する場所で、こちらも「上手」と呼ばれます。このように、同じ舞台芸術の中でも、流派や演目によって「上手」「下手」の定義が異なる場合もあるのです。

西洋の「舞台向かって右(Stage Right)」は、演者の視点に基づいています。これは、舞台演出における指示や、役者同士のコミュニケーションを円滑にするための実用的な視点と言えるでしょう。日本の「上手」「下手」のように、伝統や宗教的な意味合いは薄く、より合理的な考え方に基づいています。

このような違いは、舞台芸術における東西の文化の違いを象徴していると言えるでしょう。日本では、神聖な場所や重要な役者の登場する場所を重視し、西洋では、演者中心の効率的な舞台運営を重視しています。舞台の左右の呼び名ひとつとっても、それぞれの文化の価値観が反映されているのです。

さらに、現代演劇においても「上手」「下手」は使われています。特に、日本の伝統芸能の影響を受けた演劇や、日本の劇場で上演される演劇では、これらの用語が役者やスタッフの間で共通言語として使われています。グローバル化が進む現代においても、日本の伝統的な表現は脈々と受け継がれているのです。

しかし、現代の劇場空間は多様化しており、必ずしも伝統的な舞台構造を持つとは限りません。円形劇場や、客席が舞台を取り囲むような劇場も存在します。このような劇場では、「上手」「下手」の概念が適用しにくい場合もあります。その場合は、舞台監督や演出家の指示に基づき、個別に位置を指定することが一般的です。

このように、「舞台の右側」というシンプルな問いから、日本の伝統芸能の奥深さ、東西の文化の違い、現代演劇の多様性まで、様々な視点が見えてきます。一見些細な用語にも、歴史や文化が凝縮されていることを改めて認識させられます。そして、舞台芸術を楽しむ際には、これらの背景知識を持つことで、より深い理解と感動を得られるのではないでしょうか。