給与明細の保管義務は？

給与明細の保管義務：5年への延長とその背景、そして実務上の注意点

給与明細は、単なる給与額の通知書ではなく、従業員と企業間の重要な記録であり、法的に保管が義務付けられています。2020年4月1日に改正された労働基準法により、給与明細を含む賃金台帳、雇用契約書、解雇予告手当など、賃金に関する重要書類の保管期間は、原則として5年に延長されました（ただし、当面の間は経過措置として3年間の保管も認められています）。

この保管期間延長の背景には、近年増加傾向にある未払い賃金問題への対策強化があります。賃金未払いの申告があった場合、給与明細は未払い額の算出や労働条件の証明に不可欠な証拠となり、問題解決を円滑に進める上で非常に重要です。保管期間を延長することで、従業員がより長期間にわたって自身の権利を主張できる環境を整えることが目的とされています。

しかし、保管義務期間が延長されたことで、企業はより厳格な給与明細管理体制を構築する必要があります。具体的には、以下の点に注意が必要です。

• 保管方法の確立: 紙媒体で保管する場合は、物理的なスペースの確保や劣化対策が必要です。電子データで保管する場合は、データの安全性確保やアクセス権限の設定が重要になります。クラウドストレージの活用も有効な手段ですが、セキュリティ対策は万全に行う必要があります。
• 保管場所の明示: 給与明細がどこに保管されているのかを明確にしておく必要があります。人事担当者だけでなく、必要に応じて従業員自身がアクセスできるようにすることも検討しましょう。
• 廃棄ルールの策定: 保管期間が終了した給与明細は、個人情報保護の観点から適切に廃棄する必要があります。廃棄方法（シュレッダー、データ消去など）や廃棄責任者を明確にして、ルールを遵守しましょう。
• 従業員への周知: 給与明細の保管期間が延長されたこと、保管場所、アクセス方法などを従業員に周知することも重要です。社内規定への明記や研修などを通じて、従業員への理解を深めましょう。

単なる保管だけでなく、アクセス性と検索性を向上させることも重要です。 給与明細を電子データで保管する場合、従業員番号、氏名、支給年月などのキーワードで容易に検索できるシステムを導入することで、必要な時に迅速に情報にアクセスできます。また、従業員が自身の給与明細をオンラインで確認できるようなシステムを導入することで、人事担当者の業務負担を軽減できます。

給与明細の保管は、単なる法的な義務ではなく、従業員との信頼関係を構築し、健全な労務管理を行うための重要な要素です。保管期間の延長を機に、給与明細管理体制を見直し、より効率的で安全な管理体制を構築していくことが求められます。