診察を拒否できる法律は？

診察拒否：医師の義務と患者の権利、その境界線はどこに？

私たちは体調を崩したり、怪我をしたりした時、医師の診察を当然のように期待します。しかし、医師にも診察を拒否できる場合があることをご存知でしょうか？「医師はどんな時でも診てくれるはず」という思い込みは、時に患者と医師の間で摩擦を生む原因となります。今回は、医師の診察拒否をめぐる法的側面と、患者が安心して医療を受けられるためのポイントを解説します。

医師法・歯科医師法には「応召義務」または「診療義務」という規定が存在します。これは、正当な理由なく患者の診察要求を拒否してはならないとするものです。つまり、原則として医師は目の前の患者を診る義務を負っています。これは医療へのアクセスの平等性を確保し、国民の健康を守るための重要な規定です。

しかし、この「応召義務」は絶対的なものではありません。医師にも診察を拒否できる「正当な理由」が存在します。では、どのような場合が「正当な理由」と認められるのでしょうか？

• 緊急性がない場合: 命に関わるような緊急性がない場合、医師は予約状況や診療時間などを考慮し、診察を後日改めて依頼することが可能です。例えば、慢性的な症状の定期的な診察などは、緊急性を要さないため、医師の都合で予約調整が行われることは一般的です。

• 専門外の場合: 医師にはそれぞれの専門分野があります。例えば、内科医が高度な外科手術を行うことはできません。専門外の患者を受け入れることで、適切な医療を提供できない可能性がある場合、医師は他の専門医への紹介を行うことができます。これは、患者の利益を守るための行動であり、正当な拒否理由となります。

• 適切な医療を提供できない状況の場合: 医療機器の故障や、必要な薬剤の不足など、医師が適切な医療を提供できない状況にある場合も、診察を拒否することができます。また、医師自身の体調不良や、感染症の流行など、医師が診療行為を行うことが困難な場合も含まれます。

• 患者との信頼関係が著しく損なわれている場合: 患者からの暴言・暴力、不当な要求、治療への著しい非協力など、医師と患者の間の信頼関係が崩壊している場合、医師は診察を拒否することが認められる場合があります。これは、医師の安全を確保し、円滑な医療行為を行うために必要な措置です。

• 感染症対策上の必要性: 感染症の疑いがある患者を受け入れることで、院内感染のリスクが高まる場合、医師は専用の医療機関への受診を勧めるなど、診察を制限することがあります。これは、他の患者や医療従事者の安全を守るための必要な措置です。

ただし、これらの「正当な理由」は、客観的に妥当である必要があります。医師の個人的な感情や偏見に基づく拒否は認められません。もし、医師の診察拒否に納得がいかない場合は、医療機関に相談したり、地域の医師会、保健所などに問い合わせてみましょう。

患者と医師の関係は、相互の信頼と理解の上に成り立っています。医師の「応召義務」を理解する一方で、医師にも診察を拒否できる「正当な理由」があることを認識し、お互いを尊重した上で、より良い医療の実現を目指していくことが大切です。円滑なコミュニケーションを図り、疑問点や不安な点は積極的に医師に相談することで、より安心して医療を受けることができるでしょう。