なぜWCはクローゼットと呼ばれるのか?

0 ビュー

「WC」は「Water Closet(水洗便所)」の略称です。トイレが個室空間であることから「closet(小部屋)」という言葉が使われました。「水洗の小部屋」と訳すとイメージしやすいかもしれません。元々「closet」は収納場所に限らず、様々な小さな空間を指す言葉でした。

コメント 0 好き

なぜWCはクローゼットと呼ばれるのか? – 水洗便所の歴史と「隠れ家」としての進化

私たちは日常的に「トイレ」という言葉を使いますが、公共の場などでは「WC」という表記を目にすることも多いでしょう。このWCは「Water Closet(水洗便所)」の略称であり、直訳すると「水のクローゼット」となります。しかし、なぜトイレが「クローゼット」と呼ばれるのでしょうか?そこには、水洗便所の歴史的背景と、人々がトイレに求める空間的要素が深く関わっています。

水洗便所の誕生と普及

現代のような水洗便所の原型は、16世紀後半にエリザベス1世の宮廷でジョン・ハリントンによって発明されました。しかし、当時はまだ普及せず、本格的に普及したのは19世紀以降、ヴィクトリア朝時代のイギリスです。都市部の人口増加に伴い、衛生環境の悪化が深刻化し、公衆衛生の改善が急務となりました。そこで、下水道の整備と並行して、水洗便所が普及していったのです。

「クローゼット」の意味の変化

「クローゼット」という言葉は、元々「密室」「私室」といった意味合いを持っていました。中世の修道院などでは、貴重品を保管したり、個人的な祈りのために使われたりする小さな部屋を「クローゼット」と呼んでいました。つまり、現代の収納場所としての「クローゼット」とは異なり、もっとプライベートで隠れ家的な空間を指していたのです。

水洗便所と「クローゼット」の共通点

水洗便所が普及し始めた頃、それは単に排泄をする場所というだけでなく、個人のプライバシーが守られる空間としての意味合いも持っていました。従来の汲み取り式便所は、衛生面の問題だけでなく、臭いなども含めて快適とは言えませんでした。しかし、水洗便所の登場によって、より清潔で快適な空間が提供されるようになったのです。

さらに、当時の住居事情を考慮すると、個室としてのトイレは、一日のうちでわずかな時間でも一人になれる、貴重な空間だったかもしれません。家族が多く、プライベートな空間が確保しにくい時代において、トイレは「隠れ家」のような役割も担っていたと考えられます。

「Water Closet」という名称に込められた想い

「Water Closet」という名称は、単に「水洗式の便所」という機能的な意味だけでなく、「水によって清潔に保たれた、プライベートな空間」というニュアンスを含んでいると言えるでしょう。つまり、水洗便所の登場によって、衛生的なだけでなく、精神的な安らぎやプライバシーを確保できる空間が提供されるようになったことを象徴しているのです。

現代のトイレは、より機能的で快適な空間へと進化を続けています。しかし、「WC」という名称には、水洗便所の歴史と、人々がトイレに求める空間的要素が凝縮されていることを忘れてはならないでしょう。私たちは、単に排泄をする場所としてだけでなく、プライベートな空間としてのトイレの価値を再認識する必要があるのかもしれません。