スーツの一番下のボタンはなぜ外すのですか？

スーツのボタン、一番下はなぜ留めないのか？ その謎に迫ってみましょう。

現代のスーツの原型は17世紀の英国貴族の乗馬服と言われています。彼らは馬にまたがりやすくするために、裾周りの可動域を確保する必要がありました。そこで考案されたのが、一番下のボタンを外すという工夫です。馬に乗るとき、裾が突っ張らないよう、ボタンを外すことでスムーズな動きを可能にしたのです。

時代は下り、乗馬が日常ではなくなっても、この習慣は紳士の装いとして受け継がれていきました。実用性から生まれたルールが、いつしかエレガンスの象徴へと変化したのです。現代のスーツにおいても、一番下のボタンを外すことは、洗練された着こなしの証とされています。

では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか？

まず第一に、シルエットの美しさです。スーツのボタンを全て留めてしまうと、裾が突っ張り、体に密着しすぎて動きにくくなります。特に座った際には、窮屈な印象を与え、生地にも負担がかかり、シワの原因にもなります。一番下のボタンを外すことで、裾に自然なゆとりが生まれ、立ち姿、座り姿ともに美しいラインを描くことができます。流れるようなドレープが、スーツ本来のエレガントさを際立たせるのです。

第二に、動きやすさの向上です。現代社会において、乗馬の機会は少なくなりましたが、それでも私たちは日々様々な動きをします。歩く、座る、階段を上り下りする、といった動作をスムーズに行うためには、ある程度の可動域が必要です。一番下のボタンを外すことで、裾の突っ張り感がなくなり、より快適に動くことができます。

第三に、通気性の確保です。特に夏場など、気温が高い時期には、スーツを着ているとどうしても蒸れやすくなります。一番下のボタンを外すことで、裾部分に空気の通り道ができ、通気性が向上します。これにより、快適さを保つだけでなく、汗によるシワや型崩れを防ぐ効果も期待できます。

ただし、全てのボタンを外して良いわけではありません。シングルスーツの場合、ボタンが２つの場合は上のボタンのみ、３つの場合は真ん中のボタンのみを留めるのが基本です。ダブルスーツの場合は、常に全てのボタンを留めます。

また、近年では、ファッションの多様化に伴い、あえて一番下のボタンを留めるスタイルも見られます。しかし、これはあくまでも例外的なものであり、基本的なルールを理解した上で、個性を表現するための手段として取り入れるべきでしょう。

スーツの一番下のボタンを外すという一見些細なルールには、歴史と実用性、そして美意識が凝縮されています。このルールを知ることで、スーツスタイルをより深く理解し、洗練された着こなしを楽しむことができるでしょう。単なる習慣としてではなく、その背景にある意味を理解することで、スーツを着るという行為がより一層豊かなものになるはずです。 そして、このさりげない仕草が、あなたを真の紳士へと導いてくれるでしょう。