鳥取県の高速道路はなぜ無料なのですか？

鳥取県の山陰自動車道と鳥取自動車道が無料である理由、それは単に「国や県が負担して建設したから」というシンプルな説明だけでは不十分です。その背景には、鳥取県の地理的・経済的状況、そして日本の高速道路政策における複雑な歴史と政治的判断が深く関わっています。単なるコスト負担の問題を超え、鳥取県という地域が抱える課題への、いわば「国家プロジェクト」としての側面も持ち合わせていると言えるでしょう。

まず、鳥取県は全国的に見ても人口密度が低く、経済規模も小さい県です。山間部が多く、交通網の整備が遅れていた歴史があります。有料道路を建設・運営するには、民間企業にとって採算が取れないリスクが高いと判断されたでしょう。仮に有料化された場合、利用料金が高額になり、地域住民や観光客にとって大きな負担となり、経済活性化の妨げにもなりかねません。 そのため、国と県が負担して無料とすることで、地域経済の活性化を図ることが最大の目的の一つと言えるでしょう。

「直轄方式」や「新直轄方式」という建設方式も重要な要素です。これは、国土交通省が主体となって建設費用を負担し、運営も国が担う方式です。民間企業が利益を追求するのではなく、公共性を優先した建設・運営が行われます。この方式は、採算性よりも地域社会への貢献を重視する、一種の社会資本整備政策と言えるでしょう。山間部が多く、地形的制約も多い鳥取県において、民間企業による有料道路建設は技術的にも経済的にも非常に困難であったと考えられます。

しかし、単純に「採算が取れないから無料にした」というだけでは、鳥取県への高速道路整備の経緯を説明しきれません。背景には、長年にわたる地方への交通インフラ整備の遅れへの反省と、地域格差是正への強い政治的意志も見て取れます。高度経済成長期には、大都市圏への集中が優先され、地方への投資は相対的に不足していました。鳥取県のような地方部では、交通の不便さから人口流出が深刻な問題となり、経済発展の大きな阻害要因となっていました。高速道路の無料化は、こうした地方の活性化を促進するための重要な政策の一つとして位置づけられたと言えるでしょう。

さらに、観光誘客効果も無視できません。鳥取砂丘や大山などの観光地へのアクセスが向上することで、観光客の増加、地域経済の活性化に繋がることが期待されています。有料道路であれば、観光客の負担も大きくなり、観光客数の増加にも限界があるでしょう。無料化によって、観光客の増加という波及効果も見込める点が、この政策を支える重要な要素となっています。

以上のように、鳥取県の高速道路無料化は、単なるコスト負担の問題ではなく、地域経済の活性化、地方格差是正、観光誘客といった多角的な政策目標を達成するための、総合的な戦略の一環として位置付けられているのです。これは、日本の高速道路政策における特殊な事例であり、鳥取県の地理的・経済的状況と、国の地方振興政策が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。 将来、交通事情の変化や経済状況の変化によって、この無料化政策の見直しが行われる可能性もゼロではありませんが、現時点では、鳥取県にとってかけがえのない重要なインフラであることに変わりはありません。