1ドル90円だと円高になる？

1ドル90円は円高です。しかし、この単純な事実の裏には、多くの日本人が抱く勘違い、そして円高がもたらす複雑な経済効果が潜んでいます。単に「数字が小さいから円高」と安易に理解するのではなく、そのメカニズムと影響を深く理解することが重要です。

まず、為替レートとは何かを改めて確認しましょう。為替レートは、ある国の通貨を別の国の通貨に交換する際の比率です。1ドル90円とは、1米ドルを90円で購入できる、もしくは90円を1米ドルに交換できることを意味します。ここで重要なのは、「1ドルで買える円の量」に着目することです。1ドル90円の場合、1ドルで90円分のお買い物ができるわけです。これが、1ドル100円、1ドル120円と比較して、円高である根拠となります。数字が小さくなるほど、1ドルで買える円が多くなる、つまり円が高くなっているのです。

では、なぜ「数字が小さくなる」という点で混乱が生じるのでしょうか？それは、日常的な感覚と為替レートの表現方法の間にギャップがあるためです。私たちは、例えば、1個100円のリンゴが90円になった場合、「安くなった」と感じます。この感覚が、為替レートにも適用されがちで、数字が小さくなったから「円安になった」と誤解してしまうのです。しかし、リンゴと通貨は全く異なるものです。リンゴは商品であり、値段が下がれば「安い」と感じます。一方、通貨は交換手段であり、「安い」か「高い」かは、その通貨でどれだけ他の国の通貨を買えるか、つまりその通貨の購買力によって決まります。

1ドル90円という円高局面では、日本にとってどのような影響があるのでしょうか？まず、輸入品が安くなります。海外旅行も以前より割安になり、海外製品の購入も魅力的になります。これは、消費者の購買力向上に繋がり、国内経済を活性化させる可能性を秘めています。しかし、一方で、日本企業が海外で製品を販売した場合、円高の影響で輸出価格が高くなり、競争力が低下する可能性があります。特に、輸出比率の高い企業は大きな打撃を受ける可能性があり、業績悪化や雇用減少につながる可能性も懸念されます。さらに、日本の企業が海外投資を行う際に、より多くの円が必要となるため、投資コストが増加する可能性があります。

さらに、円高は、政府の政策にも影響を与えます。例えば、円高が長期的に続けば、輸出産業の保護を目的とした政府による介入、例えば関税の調整などが考えられます。また、円高は日本の貿易収支にも影響を与え、黒字が減少したり、赤字に転じる可能性があります。

結論として、1ドル90円は間違いなく円高です。しかし、円高が常に好ましいとは限りません。円高は、輸入拡大、海外旅行の促進などのメリットをもたらす一方で、輸出産業への打撃、海外投資コストの増加といったデメリットも存在します。経済全体への影響は複雑であり、単純に「円高＝良い」「円安＝悪い」と一概に断定することはできません。それぞれの状況と、どの経済主体にとって有利・不利なのかを総合的に判断することが重要です。 そのため、為替レートの変動を常に注視し、その背景にある経済状況を理解することが、個人や企業にとって非常に重要と言えるでしょう。