「消え物」とは業界用語で何ですか？

「消え物」とは？舞台裏を支える、口に入る演技の裏方たち

演劇や映像の世界で耳にする「消え物」。なんだか儚げな響きですが、実は舞台やスクリーンの上で、役者たちがリアルな演技を支える重要な存在なのです。具体的に「消え物」とは、出演者が劇中で口にする、あるいは消費するものを指す業界用語です。

想像してみてください。時代劇で殿様がお茶をすするシーン、現代ドラマで主人公がコンビニ弁当を食べるシーン、映画で登場人物がタバコを吸うシーン…。これらのシーンで、役者はただ物を口にする仕草をするだけではありません。実際に飲食し、煙を吐き出すことで、そのキャラクターの感情や状況をより深く表現しています。

「消え物」と呼ばれるのは、文字通り食べてしまったり、燃やしてしまったりして、その場から文字通り「消えてなくなる」からです。食べ物、飲み物はもちろんのこと、タバコ、マッチ、お香なども「消え物」に含まれます。

この「消え物」、舞台や映像作品のリアリティを追求する上で欠かせない要素ですが、その準備や管理は意外と大変です。

消え物の種類と調達：

• 食品・飲料： 役者のアレルギーの有無や、宗教上の理由など、個別の事情を考慮する必要があります。また、連日同じシーンを撮影する場合、同じ味に飽きないように、微妙に味を変えたり、種類を増やしたりする工夫も必要です。
• タバコ： 喫煙シーンは、キャラクターの心情を表現する上で重要な役割を果たしますが、健康上の問題や喫煙規制など、配慮すべき点が多岐に渡ります。近年では、電子タバコや禁煙パイプなど、代替品を用いるケースも増えています。
• その他： マッチやライターは、安全面に十分配慮する必要があります。お香は、香りの強さや種類によって、観客や演者の集中力を妨げる可能性もあるため、慎重に選ぶ必要があります。

消え物の管理と工夫：

• 鮮度管理： 食品は、鮮度が命です。特に夏場は、衛生面に十分注意する必要があります。
• 温度管理： 冷たい飲み物は冷たく、温かい飲み物は温かく提供できるよう、保温・保冷対策を講じる必要があります。
• 見た目： 舞台上やスクリーン上では、食べ物の色や形が重要です。照明によって見え方が変わるため、テスト撮影を行い、最適な状態になるよう調整する必要があります。
• 演技： 役者は、消え物を口にする際、不自然にならないように、自然な演技を心がける必要があります。そのため、事前にリハーサルを行い、スムーズに演技できるよう練習します。

このように、「消え物」は、ただ単に用意すれば良いというものではありません。役者の演技を支え、作品のリアリティを高めるために、様々な工夫が凝らされています。

歌舞伎の時代から続く、このちょっと変わった業界用語「消え物」。次回、舞台や映画を鑑賞する際には、ぜひ「消え物」にも注目してみてください。きっと、これまでとは違った視点で作品を楽しめるはずです。そして、その背後には、作品を成功させるために奮闘する、多くのスタッフの努力があることを思い出してください。