グリコは元々何だったのでしょうか？

江崎グリコ。その名前を聞けば、誰もがポッキーやプリッツ、チョコレート菓子などを思い浮かべるだろう。しかし、この国民的企業の始まりは、想像以上に地味で、そして感動的な物語に彩られている。 現在の菓子帝国を築き上げた礎は、実は「栄養菓子」だったのだ。

1921年、大阪で創業された江崎グリコの前身は、江崎利一が開発した「栄養菓子グリコ」の製造販売から始まった。利一は、当時大阪で蔓延していたチフスに罹患した自身の息子を、懸命に看病した経験を持つ。 その苦しい闘病の過程で、彼は息子の回復に貢献したと考えられる栄養素、「グリコーゲン」に着目する。

グリコーゲンとは、動物の肝臓や筋肉に蓄えられる多糖類であり、エネルギー源として重要な役割を担う。 しかし、当時の日本では、グリコーゲンの存在やその栄養価について、一般に広く知られているわけではなかった。利一は、このグリコーゲンの可能性に賭け、カキの煮汁から抽出したグリコーゲンを主成分とした栄養菓子の開発に着手する。

カキの煮汁からグリコーゲンを抽出する工程は、現代の高度な技術とは比べ物にならないほど困難なものだっただろう。試行錯誤の末に完成した「栄養菓子グリコ」は、決して華やかなものではなかった。 現代の菓子のような、魅力的な見た目や香り、多様な味といった要素は、当時の製品には欠けていた可能性が高い。しかし、それは、病気で衰弱した子供たちの栄養補給という、明確な目的を持った、極めて実用的な食品だった。

利一は、単に利益を追求するのではなく、自身の経験から生まれた強い使命感、そして「グリコーゲンの力を広く社会に届けたい」という、人々の健康への貢献という崇高な理念を胸に、この事業を始めた。 「栄養菓子グリコ」は、単なる菓子ではなく、病気で苦しむ子供たちを救うための、いわば「薬」としての役割も担っていたと考えられる。

「栄養菓子グリコ」は、当初は医師や薬剤師を通じて販売されていたという記録もある。 これは、製品が持つ栄養価に対する利一の自信と、同時に、その製品が単なる嗜好品ではなく、健康増進に資する食品であるという強い主張を示していると言えるだろう。

その後、時代の変化と共に、江崎グリコは「栄養菓子グリコ」から、より多くの人々に親しまれる菓子へと進化を遂げる。 しかし、その原点にあるのは、創業者江崎利一の息子への深い愛情と、人々の健康への強い願いであった。 現代のグリコの繁栄は、単なる企業努力の成功というだけでなく、創業者の人間性と揺るぎない信念の上に築き上げられた、感動的な物語なのである。 ポッキーやプリッツを手に取る際に、その背景にある歴史と、創業者利一の思いを少しだけでも想起してみるのも、良い経験になるだろう。 それは、私たちが日頃何気なく楽しんでいるお菓子が、実は、人々の健康と幸福を願う、熱意と情熱によって生まれたものであることを改めて認識させてくれる機会となるだろう。