富山 鱒寿司 なんの魚？

富山鱒寿司：サクラマスの恵みと歴史が織りなす、滋味深い味わい

富山県を代表する郷土料理、鱒寿司。その名前から「鱒」とはサケ科の魚であることは想像できますが、具体的にどの種類の魚が使われているのか、そしてその歴史にはどのような物語が隠されているのか、詳しく紐解いてみましょう。

一口に「鱒寿司」と言っても、全国各地で様々な種類が存在します。しかし、富山県で「鱒寿司」と言えば、一般的にサクラマスを使用していることを指します。特に、かつて神通川を遡上したサクラマスが、その主役だったと言えるでしょう。

神通川は、富山平野を潤す豊かな河川であり、古くから人々の生活に深く関わってきました。かつては、アユが盛んに遡上し、重要な食料源となっていました。しかし、春の季節、アユよりも早く、力強く神通川を遡上するのがサクラマスです。このサクラマスこそが、富山の鱒寿司の原点と言える存在なのです。

アユの遡上が盛んな時期には、アユを使った寿司が食されていましたが、アユがまだ遡上する前の春先に、その代替えとして利用されたのがサクラマスだったと伝えられています。鮮やかな紅色の身と、上品な脂の乗りが特徴のサクラマスは、寿司ネタとして最適でした。その独特の風味と、春の訪れを告げる魚であるという季節感も相まって、人々の心を掴んだのでしょう。

そして、富山の鱒寿司の歴史を語る上で欠かせないのが、江戸幕府8代将軍・徳川吉宗の存在です。吉宗は、享保年間（1716年～1736年）に富山を訪れた際に、この鱒寿司を賞味したと言われています。将軍がその味を称賛したという逸話は、富山の鱒寿司の知名度を高めるのに大きく貢献し、以来、富山を代表する名産品として広く親しまれるようになりました。

しかし、時代と共に神通川の環境変化や乱獲などにより、サクラマスの遡上数は減少しました。そのため、現在では天然のサクラマスだけでなく、養殖のサクラマスも利用されるようになっています。それでも、富山の鱒寿司を作る職人たちは、古来からの伝統を守り、厳選されたサクラマスを使用し、独自の技法で丁寧に仕上げています。

押し寿司特有の、程よく締まったご飯と、サクラマスの繊細な旨みが口の中に広がる、その味わいは格別です。一口食べれば、神通川の清流と、長い歴史の中で育まれた富山の文化を感じることができるでしょう。

近年では、観光客向けに様々な工夫が凝らされた鱒寿司も登場していますが、伝統を守り続ける老舗の鱒寿司を味わうことで、より深く富山の歴史と文化、そしてサクラマスの恵みに触れることができるでしょう。 富山を訪れた際は、ぜひ本場の鱒寿司を堪能し、その奥深い味わいと歴史に思いを馳せてみてください。 それは、単なる寿司ではなく、富山の歴史と自然の恵みが凝縮された、かけがえのない体験となるはずです。