ベトナムの平均寿命が短いのはなぜですか？

ベトナムの平均寿命は、近年の経済発展と医療技術の向上にもかかわらず、依然として東アジア諸国と比較して低い水準にとどまっています。その要因は複雑に絡み合い、単一の原因に帰結することはできませんが、大きく分けて以下の３つの側面から考察することができます。

1. 非感染性疾患の増加と感染症対策の限界:

かつてベトナムでは、マラリアや結核などの感染症が大きな死因でしたが、近年はこれらの感染症の発生率が大きく減少しています。これは、公衆衛生の改善や医療アクセスの向上による大きな成果です。しかし、この感染症対策の成功の裏で、今度は非感染性疾患（NCDs）の増加という新たな課題が浮上しています。

NCDsとは、心臓血管疾患、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患などを指し、生活習慣と密接に関連しています。ベトナムでは、急速な経済発展に伴い、食生活の欧米化、運動不足、喫煙・飲酒の増加といったライフスタイルの変化が顕著になっています。特に都市部では、ファーストフードや加工食品の摂取が増え、高脂質・高カロリーな食事が日常化している傾向が見られます。一方、バイクが主要な交通手段であるため、身体活動量は少なく、肥満やメタボリックシンドロームに悩む人が増加しています。さらに、ストレスの増加もNCDsのリスクを高める要因として無視できません。

また、これらのNCDsの早期発見・治療体制が未だ十分とは言えない点も問題です。医療施設の整備は進んでいるものの、地方部では依然として医療アクセスに課題があり、早期発見・治療が遅れることで、予後が悪化するケースも少なくありません。さらに、医療従事者の不足や専門知識の不足も、NCDs対策の遅れに繋がっていると言えるでしょう。

2. 環境要因と社会経済格差:

ベトナムの平均寿命に影響を与えるもう一つの重要な要因は、環境問題と社会経済格差です。大気汚染や水質汚染は、呼吸器疾患や感染症のリスクを高め、特に都市部では深刻な問題となっています。また、経済格差は、健康へのアクセスに大きな影響を与えます。貧困層は、栄養不足、不衛生な居住環境、質の低い医療サービスといった問題を抱えやすく、健康状態が悪化するリスクが高まります。これらの要因は、NCDsの発生リスクを増大させ、平均寿命を短縮させることに繋がります。

特に農村部では、貧困と医療アクセスの制限が深刻な問題となっており、都市部と比較して平均寿命が低い傾向にあります。衛生状態の悪さ、栄養不足、適切な医療を受けられない状況などが、健康状態を悪化させているのです。

3. ヘルスケアのアクセスと啓発活動の課題:

ベトナム政府は、国民の健康増進のために様々な取り組みを行っていますが、その効果を最大限に発揮するためには、更なる努力が必要です。例えば、NCDs予防のための啓発活動の強化、健康診断の普及、地方部への医療資源の配分、そして、質の高い医療従事者の育成が不可欠です。

健康に関する正しい知識の普及、特に若年層への啓発活動は非常に重要です。健康的な食生活、運動の習慣化、禁煙・節酒の啓発などを通して、生活習慣病の予防を促進する必要があります。また、国民一人ひとりが自身の健康管理に責任を持つ意識を高めることも重要です。

結論として、ベトナムの平均寿命が短い要因は、感染症対策の成功による非感染性疾患の増加、環境問題と社会経済格差、そしてヘルスケアアクセスの課題といった複雑な要因が絡み合っていると言えます。これらの問題に対処するためには、政府、医療機関、そして国民一人ひとりが協力して、包括的なアプローチをとることが必要不可欠です。長期的な視点に立った政策と国民の意識改革が、ベトナムの平均寿命の向上に繋がるでしょう。