日本は医師が多い国ですか？

日本の医師数：少ないという現実と、その背景にある複雑な要因

日本は高度な医療技術と、国民皆保険制度を誇る国として知られています。しかし、その一方で「医師が少ない国」という現実も存在します。人口1,000人当たりの医師数という指標で見ると、日本はOECD加盟国の中でも低い水準に位置しており、国民の健康を支える医療体制に課題を抱えていると言わざるを得ません。単に「少ない」と断言するだけでは不十分です。その背景には、複雑に絡み合った様々な要因が潜んでいるのです。

2021年のデータが示すように、日本の人口1,000人当たりの医師数は約2.6人。OECD平均を下回り、ギリシャの6.3人といった国と比較すると、その差は歴然としています。この数字が示すのは、日本の医療現場が慢性的な医師不足に陥っているという厳しい現実です。特に、地方都市や離島部では、医師不足が深刻化しており、医療へのアクセスに困難を抱える地域が少なくありません。救急医療体制の脆弱化や、専門医の不足による診療の遅れといった問題も、この医師不足が引き起こす深刻な結果の一つと言えるでしょう。

では、なぜ日本は医師が少ないのでしょうか？その原因は多岐に渡ります。まず挙げられるのは、医師養成制度の問題です。医学部への入学が極めて狭き門であることは周知の事実です。高倍率の入試を突破する必要があるため、優秀な人材が医学部を目指しにくくなっている側面も否定できません。また、医学部の教育期間の長さや、医師国家試験の難易度も、医師養成のボトルネックとなっています。卒業後も、専門医資格取得のための厳しい研修制度が存在し、医師になるまでの道のりは長く、負担も大きいと言えるでしょう。

さらに、医師の働き方も大きな問題です。長時間労働や、激務による burnout（燃え尽き症候群）は深刻な問題となっており、若手医師の離職を招く一因となっています。医師の労働環境改善は喫緊の課題であり、働き方改革による負担軽減や、医師のキャリアパスに関する制度の見直しなどが求められています。医療機関側も、より働きやすい環境づくりに積極的に取り組む必要があります。

また、医療制度自体にも改善の余地があります。例えば、診療報酬体系の見直しや、地域医療連携の強化など、医師のモチベーション向上や、働きやすい環境整備に繋がる政策が必要です。特に、地方への医師の偏在は深刻な問題であり、地域医療の活性化のためには、都市部と地方部間の待遇格差の是正や、地方医療機関への支援強化が不可欠です。

最後に、国民の意識についても触れておきましょう。健康意識の高まりは重要ですが、一方で、医療機関への受診控えや、軽症での受診増加といった問題も存在します。適切な受診行動を促すための啓発活動も、医療現場の負担軽減に繋がる重要な要素と言えるでしょう。

日本の医療は世界的に見ても高い水準にある一方、医師不足という深刻な問題を抱えています。この問題を解決するためには、医師養成制度、医師の労働環境、医療制度、そして国民意識といった多角的な視点からのアプローチが不可欠です。単なる医師数の増加だけでなく、質の高い医療を提供できる持続可能な医療体制の構築が、日本の未来にとって重要な課題と言えるでしょう。