日本一始発が遅い駅はどこですか？

日本一始発が遅い駅はどこ？ ～鉄道の空白地帯に隠された物語～

かつて「日本一始発が遅い駅」として知られていたのは、JR山田線の平津戸駅でした。その始発時刻はなんと19:09。夕暮れ時、ほとんどの駅が1日の運行を終えようとする頃、ようやく平津戸駅の一日は始まっていたのです。しかし、2022年3月のダイヤ改正により、この珍記録は更新されました。盛岡発6:32の宮古行き列車が運行開始されたことで、平津戸駅の始発は早まり、その座を他の駅に明け渡すこととなったのです。

では、現在、日本一始発が遅い駅はどこなのでしょうか？残念ながら、明確な「日本一」を特定するのは容易ではありません。時刻表は常に変化する上、臨時列車や貨物列車の存在、さらには「始発」の定義によっても答えが変わってくるからです。例えば、終電が翌朝に到着し、そのまま折り返し始発となるケースを「始発」とみなすかどうかで、議論の余地が生じます。

しかし、平津戸駅のような極端に遅い始発を持つ駅は、現在ではほとんど存在しないと言えるでしょう。その背景には、地域住民の生活スタイルの変化や、鉄道会社の経営状況などが複雑に絡み合っています。

かつての平津戸駅周辺は、林業が盛んな地域でした。山間部の過酷な環境で働く人々のために、19時過ぎの始発という特殊なダイヤが設定されていたのです。これは、仕事が終わってから下山し、列車で帰宅する人々のニーズに合わせたものでした。しかし、林業の衰退とともに人口は減少し、鉄道の利用者も減少の一途を辿りました。結果として、平津戸駅を含む山田線の一部区間は、2016年に廃止の危機に瀕しました。

その後、地域住民の強い要望と、沿線自治体の支援により、山田線は存続が決まりました。しかし、運行本数は大幅に削減され、平津戸駅の始発時刻も早まることとなりました。これは、利用者の減少という現実を反映した結果であり、時代の流れを感じさせる出来事と言えるでしょう。

平津戸駅の例は、過疎化が進む地方における鉄道のあり方を象徴しています。鉄道は、地域住民の生活に欠かせないインフラであると同時に、維持・運営には莫大な費用がかかります。利用者が減少すれば、赤字路線として廃止の対象となる可能性が高まります。

今後、日本一始発が遅い駅がどこになるのか、あるいはそのような駅が存在し続けるのかは、まだ誰にも分かりません。しかし、平津戸駅の物語は、私たちに鉄道の未来、そして地方の未来について深く考えさせるきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。

鉄道は単なる移動手段ではなく、地域の歴史や文化、そして人々の生活と密接に結びついています。始発が遅い駅という一見特殊な存在も、その地域ならではの背景や物語を秘めているのです。私たちは、その物語に耳を傾け、鉄道の未来、そして地方の未来について共に考えていく必要があるでしょう。そして、鉄道が地域にとってかけがえのない存在であり続けるために、何ができるのかを模索していく必要があるのではないでしょうか。