会社で旧姓を使うことは法律上認められていますか？

会社で旧姓を使う、その権利と現実

結婚後も旧姓を使い続けたい。仕事で、社会生活で、自分のアイデンティティとして。そんな風に考える女性は少なくないでしょう。法律上、会社で旧姓を使うことは認められているのでしょうか？結論から言うと、明確な「イエス」でも「ノー」でもありません。旧姓使用を義務付ける法律も、禁止する法律も存在しないため、グレーゾーンと言えます。

現状では、旧姓使用の可否は各企業の判断に委ねられています。就業規則に明記されている場合もあれば、個別に相談の上で認められる場合、暗黙の了解で運用されている場合など、企業によって対応は様々です。法的な裏付けがないため、企業は旧姓使用を認める義務を負っていません。これが、旧姓使用をめぐる現状の複雑さを生み出しているのです。

では、なぜこのような状況になっているのでしょうか？一つには、戸籍制度と社会慣習の乖離が挙げられます。日本の戸籍制度では、結婚すると夫婦は同じ姓を名乗ることが原則です。しかし、社会の多様化に伴い、結婚後も旧姓を使い続けたいというニーズが高まっています。旧姓は単なる名前ではなく、個人の歴史やアイデンティティと深く結びついているからです。長年築き上げてきたキャリアや人間関係を、結婚によって断絶させたくないという思いは当然と言えるでしょう。

一方、企業側にも様々な事情があります。人事管理システムや給与支払いシステムとの整合性、顧客や取引先との混乱を避ける必要性、社内での統一性を重視する企業文化など、旧姓使用を認めることで発生するコストやリスクを懸念する声も存在します。

しかし、旧姓使用を認める企業も増えてきています。ダイバーシティ＆インクルージョン（D&I）の推進や、優秀な人材の確保・定着という観点から、旧姓使用を積極的に導入する企業も少なくありません。社員の多様な働き方を尊重し、個々の能力を最大限に発揮できる環境づくりは、企業の競争力向上にも繋がります。

旧姓使用を希望する場合、まずは会社の就業規則を確認し、人事担当者などに相談してみることが重要です。自身の希望を伝え、会社側の事情も理解した上で、双方にとって納得できる解決策を探ることが大切です。

また、旧姓使用が認められない場合でも、諦める必要はありません。名刺や社内メールアドレスに旧姓を併記する、旧姓での活動実績を社内外に周知するなど、可能な範囲で旧姓を使用する方法を模索することもできます。

社会全体で旧姓使用への理解が深まり、法整備や企業の対応が進むことで、個人がより自由に、そして安心してキャリアを築ける社会の実現が期待されます。結婚、出産、育児といったライフイベントを経ても、自分の名前、自分のアイデンティティを大切にしながら、社会で活躍できる環境が整うことが、これからの日本社会にとって重要な課題と言えるでしょう。

そのためには、個人が声を上げ、企業や行政に働きかけることも重要です。旧姓使用に関する課題や現状を共有し、より良い制度設計に向けて共に考えていくことが、未来への一歩となるのではないでしょうか。