「させてもらう」は丁寧な表現ですか？

「させてもらう」は本当に丁寧な表現なのか？ ～ 曖昧な境界線と使い分けの注意点 ～

「させてもらう」という表現は、日常生活で頻繁に使われる言葉ですが、「本当に丁寧な表現なのか？」と問われると、即答できない方も多いのではないでしょうか。巷では「させていただく」が正しい謙譲語だとされ、「させてもらう」はややカジュアルな言い方、あるいは場合によっては失礼な言い方だと捉えられているようです。しかし、その境界線は曖昧で、状況によっては「させてもらう」が適切な場面も存在します。

まず、結論から言うと、一般的に「させてもらう」は「させていただく」に比べて丁寧さに欠ける表現です。これは、「させていただく」が謙譲語であるのに対し、「させてもらう」は使役の助動詞「させる」と、恩恵を受ける意味を持つ「もらう」が組み合わさった表現であるためです。つまり、相手の許可を得て行動することに重点が置かれており、自分の行為をへりくだって相手への敬意を示すというニュアンスは弱くなります。

しかし、だからといって「させてもらう」が常に失礼な表現であるとは限りません。親しい間柄や、そこまでかしこまった表現を必要としない場面では、「させてもらう」は十分許容される、むしろ自然な表現と言えるでしょう。例えば、友人との会話で「明日、ちょっと早く帰らせてもらうね」と言うのは、ごく自然な言い方です。

問題となるのは、ビジネスシーンや、目上の人に対して使用する場合です。この場合、「させていただく」を使用するのが無難でしょう。例えば、「資料を拝見させていただきます」「ご説明させていただきます」といった表現は、相手への敬意を示す上で適切です。

ただし、「させていただく」にも注意点があります。濫用すると、慇懃無礼な印象を与えたり、逆に相手に不快感を与えたりする可能性があるのです。特に、本来必要のない場面で過剰に使用すると、わざとらしい、あるいは相手を馬鹿にしていると捉えられかねません。例えば、「呼吸をさせていただきます」「お水を飲ませていただきます」といった表現は、不自然で滑稽です。

では、どのように使い分ければ良いのでしょうか？

ポイントは、以下の３点です。

1. 相手との関係性: 親しい間柄か、ビジネス上の関係か、目上の人か、などによって適切な表現は異なります。
2. 場面の状況: フォーマルな場面か、カジュアルな場面か、によって表現を使い分ける必要があります。
3. 表現の意図: 相手にどのような印象を与えたいのか、自分の行為をどのように伝えたいのかを意識することが重要です。

「させてもらう」と「させていただく」は、どちらも便利な表現ですが、状況に応じて適切に使い分けることが大切です。迷った場合は、「させていただく」を使用するのが無難ですが、過剰な使用は避け、より適切な表現を探す努力も必要です。敬語は、相手への敬意を表すための道具であり、単なる形式ではありません。相手の気持ちを考え、状況を判断し、真心が伝わる表現を心がけましょう。