江戸時代の床屋とは?

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江戸時代の髪結床は、現代の床屋のようなものでした。男性の髪を結い、整える専門の店です。
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江戸時代の髪結床は、現代の理容室とは似て非なる存在であった。単なる散髪や髭剃りを行う場所ではなく、町民の社交場、情報交換の拠点、そして時に社会の闇の一端を垣間見せる場所でもあった。その独特の風情と役割を紐解いてみよう。

まず、その外見から。現代の理容室のような清潔感あふれる空間とは異なり、髪結床は、軒先に「ちょうちん」を吊るし、看板に「髪結」の文字と、独特な絵柄を配した、やや雑多な雰囲気の店構えが多かった。店内も、床は土間の場合が多く、現代のような椅子や鏡も必ずしも揃っていたわけではなかった。客は、床に座って施術を受けるのが一般的だった。道具も、現代の理容師が使うような精密な器具とは異なり、櫛、剃刀、はさみといったシンプルなものが中心であり、それらを丁寧に手入れしながら使用していた。

施術内容は、現代の理容室と大きく異なる点が多い。現代では短く刈り込むのが一般的な男性の髪型だが、江戸時代では、武士階級を除く町民の男性は、髪を長く伸ばし、結い上げるのが一般的だった。髪結床の職人は、この髪を丁寧に結い上げ、整えるのが主な仕事だった。その技術は、時代や流行、そして個々の客の好みによって異なり、職人の腕の見せ所でもあった。単に結い上げるだけでなく、様々な飾りやヘアアクセサリーを使用し、より華やかに演出することもあった。特に祭礼や祝い事の際には、特別な髪型を依頼する客も多く、髪結床はそれら需要に応える重要な役割を果たしていた。

さらに、髪結床は単なる散髪屋ではなかった。当時の情報伝達の手段は限られていたため、髪結床は町内の人々の噂話や情報を集め、発信する重要な場所でもあった。職人は、様々な客と接することで、町内の出来事や世間の動向をいち早く知り、それを他の客に伝える役割を担っていた。一種の社交場としての機能を果たしていたと言えるだろう。また、身分に関わらず様々な客が訪れたため、様々な階層の人間関係の交差点でもあった。

しかし、その裏側には闇も潜んでいた。例えば、隠密活動の拠点として利用されたり、密会に使われたりといったケースもあったと言われている。時代劇などでも描かれるように、時には犯罪に手を染める者もいたとされる。こうした闇の存在は、髪結床が町の様々な情報を集め、人々の交流の場として機能していた裏返しとも言えるだろう。

このように、江戸時代の髪結床は、現代の理容室とは異なり、単なる散髪をする場所を超えて、町民生活に深く関わった、多様な機能を持つ場所であった。その雑多で活気のある様子は、現代の人々にとって、想像力を掻き立てる魅力的な存在であろう。 現代の理容室に通う際に、江戸時代の髪結床の賑やかで複雑な歴史を少し思い起こしてみるのも、面白い経験になるかもしれない。