日本の分娩施設数は？

日本の分娩施設数の減少：少子化と医療環境の変化が織りなす複雑な現実

日本の分娩施設数は、近年著しい減少傾向を示しており、深刻な社会問題となっている。かつては多くの妊産婦が選択肢として利用できた分娩施設も、平成8年（1996年）の病院1720施設、診療所2271施設をピークに、令和3年（2021年）には病院946施設、診療所999施設へと、約半数にまで減少した。この減少は、単なる数字の減少ではなく、日本の少子化問題や医療環境の変化を反映した、より複雑で深刻な問題を示唆している。

まず、最も大きな要因として挙げられるのは、少子化である。出生数の減少は、分娩件数の減少に直結し、経済的な理由から分娩施設の維持が困難になっている。分娩は、設備投資や人件費など、多額の費用を必要とする。出生数が減少すれば、収益が減少し、赤字経営に陥る施設が増える。特に、地方部では人口減少が著しいため、分娩施設の閉鎖が相次いでおり、妊産婦はより遠方の病院に通院せざるを得ない状況に置かれている。これは、妊娠・出産における負担増加、緊急時の対応遅延など、様々な問題を引き起こす可能性がある。

次に、医療環境の変化も大きな要因である。医師や助産師などの医療従事者の不足は、慢性的な課題となっている。特に産婦人科医は、長時間労働や責任の重さから、希望する医師が減少している傾向にある。高齢化が進む中、医師の高齢化も問題となっており、若手医師の育成や確保が喫緊の課題となっている。さらに、高度な医療機器の導入や維持管理にも多額の費用が必要であり、中小規模の分娩施設にとっては大きな負担となっている。

加えて、分娩施設の減少は、医療の質の均一化にも影響を与えている可能性がある。多くの分娩施設が都市部に集中しているため、地方部の妊産婦は、高度な医療を受けにくい状況にある。これは、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症を抱える妊産婦にとって、大きなリスクとなる。また、分娩施設の減少は、選択肢の減少につながり、妊産婦の希望に沿った出産が難しくなる可能性もある。例えば、自然分娩を希望する妊産婦が、帝王切開しか行わない施設しか選択肢がない状況に陥る可能性も考えられる。

これらの問題を解決するためには、多角的なアプローチが必要となる。少子化対策は、国全体の課題として継続的に取り組む必要がある。医療従事者の待遇改善や、産婦人科医の育成・確保のための支援体制の強化も急務である。また、分娩施設の経営支援策や、地域医療連携の強化なども検討すべき課題である。特に地方部においては、地域住民のニーズを踏まえた、持続可能な分娩施設の運営モデルの構築が重要となるだろう。

日本の分娩施設の減少は、単なる医療問題ではなく、少子化問題、医療従事者不足問題、地域格差問題など、複雑に絡み合った社会問題である。この問題に対し、政府、医療関係者、地域住民が一体となって、真摯に取り組む必要がある。未来世代のためにも、安心して出産できる環境を整備することは、喫緊の課題と言えるだろう。