救急車の適正利用はなぜ必要なのか？

救急車の適正利用はなぜ必要なのか？ ― 命と医療資源を守るために

日本の救急医療体制は、限られた数の救急車と医療従事者によって支えられています。その貴重な資源を最大限に有効活用し、国民の命と健康を守るためには、救急車の適正利用が不可欠です。軽症の患者が救急車を占有することで、より緊急度の高い患者の搬送が遅延し、結果として取り返しのつかない事態を招く可能性があるからです。単に「便利だから」という理由での利用は、決して許されるものではありません。

救急車が必要な状況とは、具体的にどのような場合でしょうか？ 例えば、意識障害、呼吸困難、激しい胸痛、大出血といった、命に関わる可能性のある症状や、重症外傷を負った場合などが挙げられます。 これらの症状は、一刻を争う状況であり、専門的な医療処置を迅速に必要とします。 救急車は、まさにそのような緊急事態に対応するための、貴重な社会インフラなのです。

一方、軽症の症状の場合、救急車の利用は必ずしも適切とは言えません。 例えば、軽い打ち身や切り傷、風邪の症状、発熱、吐き気など、命に関わる危険性が低い症状の場合、救急車を呼ぶよりも、近くのクリニックや病院を受診する、あるいはかかりつけ医に相談する方が適切です。 救急外来は、緊急性の高い患者を優先的に受け入れる体制をとっているため、軽症患者が長時間待つことになり、かえって医療現場の負担を増大させてしまうことになります。

救急車の適正利用を阻害する要因の一つに、情報不足が挙げられます。 国民全体が、救急車の適切な利用方法について、より深く理解する必要があるでしょう。 例えば、どのような症状の場合に救急車を呼ぶべきなのか、あるいは、救急車を呼ぶ前にどのような対応をとるべきなのか、といった情報が不足していることが、誤った利用を招く一因となっています。 学校教育や地域社会での啓発活動を通じて、救急車の適正利用に関する正しい知識を広めていくことが重要です。

また、救急車を呼ぶ際の判断に迷う場合、救急相談センター（#7119）の活用が有効です。 救急相談センターでは、医療関係者が症状を聞き取り、救急車の要否や適切な医療機関の案内をしてくれます。 安易に救急車を呼ぶ前に、まずは救急相談センターに相談することで、医療資源の無駄遣いを防ぎ、本当に必要な人に救急車を届けることができます。

さらに、高齢化社会の進展に伴い、高齢者の急病による救急搬送が増加傾向にあります。 高齢者は、若い世代に比べて、病気の症状が分かりにくかったり、症状が悪化するスピードが速かったりするケースがあります。 そのため、高齢者の家族や周囲の人は、高齢者の健康状態を常に注意深く観察し、少しでも異変を感じたら、迷わず医療機関に相談する必要があります。 そして、救急車を呼ぶべきかどうかを判断する際には、救急相談センターの利用を積極的に検討しましょう。

救急車の適正利用は、単なるマナーの問題ではありません。 それは、限られた医療資源を公平に配分し、本当に緊急を要する人々の命を守るための、社会的な責任です。 一人ひとりが救急車の適正利用について理解を深め、適切な行動をとることで、より安全で安心な社会を実現することができるのです。 自分の命だけでなく、他者の命を守るためにも、救急車の適正利用を心がけましょう。