英語で「音楽が流れ続ける」は?

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頭の中にこびりついて離れない、CMやスーパーで流れた曲。この現象は、英語でearwormやlast song syndrome (略してLSS)と呼ばれます。
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音楽が流れ続ける:耳に残る旋律の謎

誰もが経験したことがあるだろう、あの現象。スーパーマーケットで聞いた軽快なJ-POP、CMで流れた覚えのないメロディー、はたまた何年も前に聴いたあの曲のフレーズが、頭の中で延々とループ再生される。この、耳から離れない、こびり付くような音楽体験。英語では「earworm」や「last song syndrome (LSS)」と呼ばれ、日本語では「脳内再生」や「耳虫」といった表現が用いられることが多い。しかし、この現象の背後には、一体どのようなメカニズムが潜んでいるのだろうか?

単なる記憶の問題と片付けるには、earwormは複雑で興味深い。それは、単に曲を覚えているという以上の何かを含む。それは、無意識のうちに繰り返される、嫌でも頭から離れない、強迫観念に近い体験であることが多い。例えば、仕事中に全く関係のない曲が頭の中でループし、集中力を妨げられた経験を持つ人も多いだろう。それは、単なる不快感にとどまらず、時にストレスや苛立ち、不安をもたらすこともある。

earwormを引き起こしやすい要因として挙げられるのは、曲の構成要素である。キャッチーなメロディー、繰り返しが多いフレーズ、独特のリズムパターンなどは、脳内でループ再生されやすい傾向がある。特に、覚えやすく、中毒性のあるメロディーは、脳に深く刻み込まれ、容易に「再活性化」される。これは、脳の記憶システムと密接に関連している。私たちの脳は、繰り返し接した情報を優先的に記憶する傾向があり、耳に残る曲は、まさにその好例と言えるだろう。

さらに、心理的な要因も無視できない。例えば、その曲が特定の思い出や感情と結びついている場合、earwormはより強く、長く続く傾向がある。楽しい思い出と結び付いた曲は、幸福感とともに脳内で再生される一方、嫌な思い出と結びついた曲は、不快感やストレスを伴うループを形成する可能性がある。また、不安やストレスを抱えている状態では、脳はより頻繁にearwormを経験する傾向があるとされる。これは、脳が不安やストレスから気を紛らわすための、一種の防衛機構として機能している可能性を示唆している。

では、この厄介なearwormを止めるにはどうすれば良いのだろうか?いくつかの方法が提案されている。例えば、別の曲を聴く、歌を歌う、その曲を最後まで聴くことなどが効果的であると言われている。これらの行為は、脳の注意を別の情報に切り替えることで、耳に残るループを中断する助けとなる。また、瞑想やリラクゼーションテクニックを用いることで、心理的なストレスを軽減し、earwormの発生頻度を下げることも期待できる。

earwormは、音楽認知、記憶、感情といった多様な認知機能が複雑に絡み合った現象である。その発生メカニズムは未だ完全には解明されていないが、今後の研究により、より詳細な理解が得られることが期待される。そして、その理解は、音楽療法や認知療法といった分野への応用にも繋がる可能性を秘めていると言えるだろう。 耳に残るメロディーは、単なる煩わしさだけでなく、私たちの脳の働きを理解するための貴重な手がかりを与えてくれるのかもしれない。