音合わせの基準はなぜ「ラ」なのですか?

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2600 年前に古代ギリシャで最も低い音の弦が「A」と名付けられ、これが現在私たちが知っている「ラ」音に対応していました。最も低い音、つまり音楽の始まりの音をアルファベットの最初の文字にしたのです。

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なぜ音合わせの基準は「ラ」なのか?~音楽の始まりと普遍的な基準点~

楽器を演奏する人なら誰もが経験する、音合わせ(チューニング)。オーケストラであればコンサートマスターが「ラ」の音を出し、それに合わせて各楽器が音を調整します。ピアノの調律師も、基準となる「ラ」の音を元に全体の音を整えていきます。しかし、なぜ数ある音階の中で「ラ」が基準音として選ばれたのでしょうか?

確かに、冒頭で述べられているように、古代ギリシャにおいて最も低い音の弦が「A」と名付けられたという説は興味深い示唆を与えてくれます。アルファベットの最初の文字である「A」を、音楽の始まりの音に当てはめたという考え方は、音楽に対する当時の人々の認識を垣間見ることができます。しかし、これだけでは「ラ」が普遍的な基準音として定着した理由を完全に説明することはできません。

より深く掘り下げていくと、複数の要因が複合的に作用していることが分かります。

  • 歴史的変遷と音階の確立: グレゴリオ聖歌の時代から中世・ルネサンス期にかけて、音階の体系が徐々に確立されていきました。この過程で、音階の中心となる音、つまり「主音」が重要視されるようになり、音組織を理解する上での基準点としての役割を持つようになりました。

  • 音響学的な安定性: 「ラ」の音は、倍音構造において比較的安定していると考えられています。倍音とは、ある音を鳴らした際に同時に鳴っている、その音の整数倍の周波数を持つ音のことです。安定した倍音構造を持つ音は、他の音との調和を取りやすく、音合わせの基準として適していると言えます。

  • 可聴範囲の中心: 人間の可聴範囲(一般的に20Hz~20kHz)の中心に近い周波数を持つ音であることも、理由の一つとして挙げられます。「ラ」の音(通常は440Hz)は、高すぎず低すぎず、多くの楽器が比較的容易に発音できる音域に位置しています。そのため、基準音として使いやすいのです。

  • 文化的な慣習: 音楽は文化と密接に結びついています。西洋音楽の歴史の中で、「ラ」の音が基準音として広く使用されてきたという慣習が、その地位を確立する上で大きな影響を与えたことは間違いありません。特に、バロック音楽以降の調律法、例えば平均律などが普及するにつれて、「ラ」の音を基準とした調律が一般化していきました。

これらの要因が複雑に絡み合い、長い時間をかけて「ラ」の音が音合わせの基準音として定着していったと考えられます。古代ギリシャにおける音の命名から始まり、音階の確立、音響学的な安定性、可聴範囲の中心性、そして文化的な慣習に至るまで、様々な要素が積み重なって現在の形になったのです。

つまり、「ラ」の音が音合わせの基準音として定着したのは、単に歴史的な偶然ではなく、音楽の本質的な構造や人間の聴覚特性、そして文化的な背景が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。私たちは当たり前のように「ラ」の音を基準に音を合わせていますが、その背後には、音楽の歴史と人々の音楽に対する探求の歴史が隠されているのです。