後頭神経痛のトリガーポイントは？

後頭神経痛のトリガーポイント：解剖学的考察と痛みのメカニズム

後頭神経痛は、後頭部や頸部上部に激しい痛みを引き起こす神経痛の一種です。その痛みは、特定の部位を圧迫することで誘発されることが多く、この圧痛部位を「トリガーポイント」と呼びます。しかし、後頭神経痛のトリガーポイントは、単なる圧痛点ではなく、複雑な神経学的メカニズムが絡み合った結果として現れるものです。本稿では、後頭神経痛のトリガーポイントの解剖学的背景、痛みの発生メカニズム、そしてトリガーポイントを探るための臨床的なアプローチについて考察します。

後頭神経痛の主な原因は、大後頭神経、第2頸神経後枝、第3頸神経後枝といった後頭部の神経の圧迫や炎症です。これらの神経は、後頭部の筋肉、筋膜、そして骨格構造と密接に関連しています。トリガーポイントの多くは、これらの神経の走行に沿って位置しています。具体的には、後頭下筋群（特に頭半棘筋、頭板状筋、上頭斜筋など）、そして後頭部の筋膜である項靭帯や頭蓋骨との付着部付近がトリガーポイントとなりやすいとされています。

後頭部中央から約2cm外側という記述は、あくまで一般的な傾向を示すものであり、個々の患者におけるトリガーポイントの位置は、筋肉の緊張状態、姿勢、過去の怪我などによって大きく変動します。例えば、片側の後頭部痛の場合は、痛みのある側にトリガーポイントが集中している可能性が高いですが、両側性の痛みでは、左右対称的にトリガーポイントが見られることもあります。また、トリガーポイントは単独で存在するとは限りません。複数のトリガーポイントが関連して痛みを引き起こすケースも少なくありません。

トリガーポイントを圧迫することで痛みが生じるメカニズムは、未だ完全には解明されていませんが、以下の要因が考えられています。

• 神経の機械的圧迫：トリガーポイント周辺の筋緊張や筋膜の癒着によって、神経が直接圧迫され、痛み信号が伝達される。
• 神経の化学的刺激：トリガーポイントでは、炎症性物質（プロスタグランジン、ブラジキニンなど）が放出され、神経線維を刺激し、痛みの増強を引き起こす。
• 中枢神経系の変化：慢性的な痛みは、脳における痛みの処理機構に変化をもたらし、痛覚過敏や異痛症を引き起こす。これは、トリガーポイント以外の部位でも痛みを感じやすくする可能性がある。

臨床的には、トリガーポイントの特定には、患者の病歴聴取と丁寧な身体診察が重要です。患者の訴える痛みの部位、発症状況、誘発因子などを詳しく聞き取ることで、トリガーポイントの位置を推測することができます。さらに、患者の後頭部や頸部を触診し、圧痛点や筋肉の硬結を探します。触診時に、トリガーポイントを押圧すると頭頂部へと放射状に痛みが広がることを確認することも重要です。

トリガーポイントの治療としては、物理療法（マッサージ、ストレッチ、温熱療法）、薬物療法（鎮痛剤、筋弛緩剤）、そして神経ブロックなどが用いられます。トリガーポイント注射も有効な治療法の一つですが、専門医による適切な診断と治療が必要です。

後頭神経痛のトリガーポイントは、単なる圧痛点ではなく、複雑な神経学的メカニズムが関与した痛みの源泉です。正確な診断と適切な治療を行うためには、解剖学的知識と臨床経験に基づいた丁寧な診察が不可欠となります。 自己診断や安易な治療は避け、医療機関への受診をお勧めします。