「させていただく」は正しい敬語ですか?

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「させていただく」は、相手に許可を得て何かを行う際に使う謙譲語であり、正しい敬語表現です。自分がへりくだることで、相手への敬意を示す効果があります。ただし、使用場面を誤ると慇懃無礼になる可能性もあるため、注意が必要です。

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「させていただく」は正しい敬語と言えるのか?この問いは、一見単純そうに見えながら、日本語の敬語の奥深さ、そしてその使用における微妙なニュアンスを浮き彫りにする、非常に興味深い問題です。結論から言うと、「正しい」と断言することはできず、むしろ「状況次第で正しい、あるいは不適切になる」というのがより正確な答えでしょう。

確かに、「させていただく」は謙譲語として辞書にも掲載され、相手に許可を得て、あるいは相手に配慮して何かを行う際に用いられる表現です。自分の行為を小さく見せることで、相手に敬意を示す、という効果があります。例えば、「会議資料を準備させていただきます」や「お荷物をお持ちさせていただきます」などは、相手への気遣いが感じられ、自然で丁寧な表現と言えます。 これらは、相手に恩恵を与える行為、あるいは相手に奉仕する行為を謙遜して表現しており、適切な敬語の使い方と言えるでしょう。

しかし、「させていただく」の多用は、時に「慇懃無礼」や「過剰な謙遜」と受け取られ、かえって相手に不快感を与えてしまう可能性があります。 例えば、上司に対して「この件について、ご報告させていただきます」は、状況によっては硬すぎたり、やや距離を感じさせる表現になるかもしれません。上司との関係性や社風によっては、「ご報告します」といった簡潔な表現の方が自然で好ましいケースも存在します。

更に問題となるのは、「させていただく」を本来の謙譲語としての意味を逸脱して使用してしまうケースです。例えば、自分の業務を説明する際に「本日は、プレゼンテーションをさせていただきます」のように使うと、単なる行為の報告に過ぎず、謙遜の意味合いは薄れてしまいます。この場合、「本日は、プレゼンテーションをします」の方が自然で、かえって丁寧な印象を与えるかもしれません。 自分の行為をわざわざ「~させていただく」と表現することで、聞いている側に「そんなに大した事ではないのに、さも偉そうにしている」という逆効果を生む可能性もあるのです。

「させていただく」を使用する際のポイントは、以下の3点に集約されます。

  1. 本当に相手に許可を得ている、もしくは配慮しているか?: 単なる行為の報告に「させていただく」をつけるのは、冗長で不自然な印象を与えます。
  2. 相手との関係性: 上司やお客様など、目上の方に対しては、状況によってはより簡潔な表現の方が適切な場合があります。
  3. 文脈: 文章全体の流れの中で、「させていただく」が自然に溶け込んでいるか、あるいは浮いていないかを注意深く確認する必要があります。

「させていただく」は、状況に応じて適切な敬語として機能する反面、不適切な使用は逆効果を生む可能性を秘めた、非常に繊細な表現です。 熟練した日本語話者であっても、その使い分けに迷う場面は少なくありません。 従って、「正しい敬語」と断定するのではなく、常に文脈や相手との関係性を考慮し、より自然で丁寧なコミュニケーションを目指すべきなのです。 過剰な謙譲は、時に真の敬意を損なうことにもなりかねません。 「させていただく」を使う際には、その言葉の重み、そしてその潜在的なリスクを常に意識することが重要です。