ディーゼルエンジンの空気始動とは?

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圧縮空気始動は、中大型ディーゼルエンジンで用いられる始動方式です。空気槽に蓄えられた圧縮空気を直接シリンダーに送り込み、ピストンを押し下げる力でクランクシャフトを回転させる方法と、エアモーターを動力源としてエンジンを始動させる方法があります。

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ディーゼルエンジンの空気始動:巨躯を動かす息吹

ディーゼルエンジン、特に大型のもの、例えば船舶や発電所、大型建設機械などに搭載されるものは、その巨大なサイズと高い圧縮比ゆえ、容易に始動させることができません。セルモーターのような電気始動では、必要なトルクを発生させることが困難であり、信頼性も低いからです。そこで、古くから用いられてきた確実な始動方法が「空気始動」です。本稿では、この空気始動の仕組み、メリット、デメリット、そして現代における位置づけについて詳細に解説します。

空気始動の方法は大きく分けて二種類あります。一つは、高圧の圧縮空気を直接シリンダー内に噴射し、ピストンを動かす方法、もう一つは、圧縮空気で駆動されるエアモーターを用いてクランクシャフトを回転させる方法です。

直接シリンダー噴射式空気始動:

この方法は、空気ボンベと呼ばれる高圧の圧縮空気を貯蔵する容器から、専用のバルブを通して圧縮空気を直接シリンダー内に供給します。通常、始動のために使用されるシリンダーは、エンジンのシリンダーのうち、最も容易に始動可能な位置にあるシリンダーが選ばれます。高圧の空気がシリンダー内に充填されると、ピストンを強力に押し下げ、クランクシャフトを回転させます。この回転が他のシリンダーに伝わり、最終的にエンジンが始動します。 この方法は、シンプルで直接的なため、構造が比較的簡単で、メンテナンスも容易な点がメリットです。しかし、高圧の空気を扱うため、安全性への配慮が重要であり、適切な安全装置の設置が不可欠です。また、始動に使用する空気の量が多いため、空気ボンベの容量が大きくなり、設置スペースを多く必要とします。さらに、高圧の空気はシリンダー内壁に大きな衝撃を与えるため、エンジンの摩耗を促進する可能性も考慮しなければなりません。

エアモーター式空気始動:

エアモーター式空気始動は、圧縮空気で駆動されるエアモーターを介してクランクシャフトを回転させます。エアモーターは、圧縮空気のエネルギーを回転運動に変換する装置です。この方法は、直接シリンダーに空気を噴射する方法と比較して、エンジンのシリンダーへの負担が少なく、摩耗が少ない点がメリットです。また、始動に必要な空気の量も比較的少なく済むため、空気ボンベの容量を小さくできます。しかし、エアモーター自体が複雑な機械構造を持つため、製造コストが高く、メンテナンスも複雑になる傾向があります。

空気始動のメリット・デメリット:

メリット:

  • 高い始動信頼性: 特に低温時や高負荷状態でも、高い信頼性でエンジンを始動できます。
  • 大トルク発生: セルモーターでは困難な、大トルクの発生が可能であり、大型エンジンの始動に適しています。

デメリット:

  • 高圧空気供給設備が必要: 高圧空気ボンベやコンプレッサーなどの設備が必要となります。
  • 安全性への配慮: 高圧空気を取り扱うため、安全対策が不可欠です。
  • 始動時の騒音: 直接シリンダー噴射式では、大きな騒音が発生します。
  • 環境への影響: 空気圧縮にエネルギーを消費するため、環境負荷がゼロではありません。

現代において、電気始動技術の進歩により、中小型ディーゼルエンジンでは空気始動はほとんど用いられなくなりましたが、大型ディーゼルエンジン、特に信頼性が極めて重要な用途では、その高い信頼性から空気始動は依然として重要な始動方法の一つとして活用されています。将来的には、より省エネルギーで環境に優しい始動方法が開発される可能性がありますが、空気始動の持つ確実性は、今後も一定の需要を維持すると考えられます。