新幹線や空港のない県は？

新幹線も空港もない県。一見不便そうに思えるこの状況は、実はそれぞれの県に独特の風土や文化、そして未来への可能性を秘めていることを示唆しています。山梨県、三重県、奈良県。この３県に共通するのは、高速交通網の空白地帯であるという点です。しかし、この「不便さ」こそが、独自の観光資源や地域経済を育み、静かに、しかし着実に発展を遂げている背景となっています。

まず、山梨県。富士山を擁する雄大な自然は、まさにその最大の観光資源です。新幹線も空港もないことで、大規模な開発による自然破壊が避けられ、その手つかずの自然が今もなお多くの人々を魅了し続けています。都心からのアクセスは、高速道路やバスに頼ることになりますが、その時間こそが、旅の期待感を高め、到着した時の感動をより一層深めるのかもしれません。ワイン産地としても有名な山梨県は、近年、こだわりのワイナリーが次々と誕生し、世界的な評価も高まっています。これは、大規模な開発よりも、質の高い観光資源の育成に力を入れた結果と言えるでしょう。

三重県は、伊勢神宮を筆頭に、歴史と伝統が息づく県です。伊勢志摩国立公園の美しい海岸線や、豊かな自然、そして数多くの神社仏閣は、国内外から多くの観光客を惹きつけています。新幹線や空港がないことで、大規模な観光開発による環境への影響を最小限に抑え、古くからの伝統文化を守り、継承することに成功しています。近年では、伊勢志摩サミットの開催を機に、さらに注目度が高まり、世界に誇る観光地として着実に発展を遂げています。しかし、過度な観光客の増加による問題にも直面しており、そのバランスを取りながらの持続可能な観光開発が課題となっています。

そして奈良県。古都奈良の情緒溢れる街並み、春日大社の荘厳な雰囲気、東大寺の大仏殿の圧倒的な存在感。歴史的建造物と自然が調和した独特の景観は、多くの観光客を魅了し続けています。新幹線も空港もないにも関わらず、多くの観光客が訪れる理由は、その魅力の強さにあります。近鉄奈良線などの鉄道網が整備されているとはいえ、そのアクセス方法の不便さも、古都の静けさを守る一因となっているのかもしれません。奈良公園の鹿と触れ合う体験や、伝統的な工芸品との出会いは、他の地域では味わえない特別な体験を提供しています。

これらの３県は、新幹線や空港を持たないことで、独自のアイデンティティを築き、発展してきました。それは、大規模な開発に頼るのではなく、既存の資源を活かし、独自の文化や魅力を磨いてきた結果と言えるでしょう。もちろん、交通の便の悪さが課題であることは事実です。しかし、その課題克服のために、新たな交通手段の導入や、地域間の連携強化など、様々な取り組みが進められています。

将来、新幹線や空港の建設が実現する可能性も否定できません。しかし、その際には、これまでの発展の歴史を踏まえ、自然環境や文化、伝統を大切にした上で、持続可能な発展を目指していくことが重要です。新幹線や空港はあくまで手段であり、目的ではありません。これらの３県が目指すのは、単なる観光地ではなく、人々が心から安らぎ、そして未来へ希望を感じられる地域社会の創造なのではないでしょうか。 その未来像を描く上で、現在の「不便さ」は、むしろ貴重な財産となる可能性を秘めていると言えるでしょう。