低血糖とは70以下ですか？

低血糖とは70mg/dL以下？血糖値の落とし穴と個々の違い

血糖値が70mg/dLを下回ると低血糖とみなされる、という単純な公式は、実は少し危険な短絡です。確かに、多くのガイドラインや医療現場では70mg/dLを低血糖の目安としていますが、それはあくまで平均的な値であり、個人差が大きく存在するという点を理解しておく必要があります。 低血糖の症状やその重症度は、個々の血糖コントロールの状態、過去の低血糖経験、そして個人の感受性によって大きく異なるからです。

70mg/dLで症状が現れる人もいれば、60mg/dLでも何ともない人もいます。逆に、80mg/dLでも症状が出る人がいるのも事実です。これは、体が血糖値の変動にどれだけ慣れているか、そしてその個人が低血糖に対してどの程度敏感かに依存します。長年糖尿病を患い、頻繁に血糖値の変動を経験している人であれば、70mg/dL程度では症状を感じにくい可能性があります。これは一種の「耐性」が身についているとも解釈できます。しかし、この耐性は決して良いものではなく、低血糖の危険性を過小評価することにつながりかねません。深刻な低血糖に陥るリスクが高まる可能性があるのです。

一方、糖尿病治療を始めたばかりの人や、低血糖の経験が少ない人は、70mg/dLを下回っただけで、強い症状を経験する可能性があります。冷汗、震え、動悸、めまい、吐き気、焦燥感、集中力の低下などは、比較的軽い症状として挙げられます。しかし、血糖値がさらに低下すると、頭痛、視覚障害、意識障害、痙攣、昏睡といった、生命に関わる重篤な症状へと発展する可能性も否定できません。特に、運転中や高所作業中など、意識を失うことが危険を伴う状況下では、深刻な事態を招くリスクが非常に高まります。

では、個人がどの程度の血糖値で低血糖症状を呈するのか、どうやって把握すれば良いのでしょうか？ それは、日々の血糖値測定と、自身の身体を注意深く観察することでしかありません。血糖値が下がった際にどのような症状が現れるのか、どの程度の血糖値で症状が現れるのかを記録し、自身の低血糖閾値（症状が現れる血糖値）を把握することが重要です。この閾値は、時間帯、食事内容、運動量、薬剤の影響などによって変化することも考慮しなければなりません。

医師との綿密な連携も不可欠です。自身の症状や血糖値の記録を医師に伝え、最適な治療方針を検討してもらうことが重要です。血糖値目標値の設定、インスリンや血糖降下薬の調整、低血糖対策（ブドウ糖の携帯など）についても、医師と相談しながら決定する必要があります。

低血糖は、糖尿病治療における深刻な合併症の一つです。70mg/dLという数字にとらわれず、個々の状況に応じた適切な対応、そして日々の注意深いセルフモニタリングが、低血糖のリスクを軽減し、安全な糖尿病生活を送る上で不可欠なのです。 自分の身体の声に耳を傾け、適切な医療機関と連携を取ることが、健康を維持するための最善策と言えるでしょう。