パーミルで日本最大なのは？

日本の鉄道は、その歴史と技術の高さで世界的に知られていますが、その中でも特に注目を集めるのが、急勾配路線です。 山岳地帯が多い日本において、急勾配を克服する技術は鉄道の発展に欠かせない要素であり、幾多の工夫と挑戦の歴史が刻まれています。 では、日本一急勾配の路線はどこにあるのでしょうか？ パーミルで表現すれば、その答えは明確です。

冒頭でも触れたように、大井川鐵道井川線のアプトいちしろ駅〜長島ダム駅間が、最大勾配90パーミルを誇り、日本一の座を確固たるものとしています。 しかし、単に「日本一」という事実だけを述べるだけでは、その魅力を十分に伝えることはできません。 この区間が持つ特異性、そしてその背景にある技術や歴史に焦点を当てて、より深く掘り下げてみましょう。

90パーミルという数字は、1000メートル進むごとに90メートル上昇するという意味です。 これは、想像以上に急峻な勾配であり、普通の鉄道車両では到底走行できません。 そのため、大井川鐵道井川線では、アプト式と呼ばれるラックレール方式を採用しています。 これは、レールに加えて歯のあるレール（ラックレール）を敷設し、車両の歯車と噛み合わせることで、強力な牽引力を得る技術です。 このアプト式のおかげで、急峻な山岳地帯を乗り越え、奥大井の秘境へと至る鉄道網が実現しています。

アプトいちしろ駅〜長島ダム駅間の走行は、単なる移動手段を超えた、スリリングな体験です。 車両は、力強いモーターのうなりを上げながら、まるで垂直に立ち上がるかのような急勾配を登って行きます。 車窓からは、大井川の雄大な自然が眼下に見渡せ、そのコントラストが旅情をさらに掻き立てます。 特に、勾配の頂点付近からは、長島ダムの壮大な姿が目前に広がり、息を呑むような絶景を堪能できます。 この絶景と、アプト式鉄道ならではの迫力ある走行体験は、鉄道ファンのみならず、多くの観光客を魅了する大きな要因となっています。

しかし、この路線は単なる観光資源ではありません。 かつてこの地域は、ダム建設や林業などで栄え、人々の生活を支える重要な役割を果たしていました。 井川線は、それらの産業を支えるための交通手段として建設され、地域社会と深く結びついているのです。 急勾配という困難を克服した鉄道技術は、地域の繁栄に貢献し、そして今、観光資源として新たな価値を生み出しています。 90パーミルという数字の裏には、人々の努力と、自然と調和した技術開発の歴史が刻まれていると言えるでしょう。

最後に、大井川鐵道井川線のアプトいちしろ駅〜長島ダム駅間は、単なる日本一の急勾配路線ではありません。 それは、日本の鉄道技術の粋を集めた結晶であり、雄大な自然と人間の知恵が織りなす、忘れられない体験を提供してくれる、まさに「日本の宝」と言える存在なのです。 もし機会があれば、ぜひこの感動を自身の目で、そして肌で感じてみてください。