行政書士ができない相続は？

行政書士は、多岐にわたる許認可申請や契約書作成などを業務範囲としており、その専門性から頼りになる存在です。しかし、相続手続きにおいては、できることとできないことが明確に区別されています。特に、一般的に誤解されやすいのが、行政書士が相続手続き全てを代行できるわけではないという点です。 本稿では、行政書士が関与できない相続手続き、特に司法書士の独占業務との違いを中心に解説します。

まず、最も重要なのは不動産の相続登記です。これは司法書士の独占業務であり、行政書士は一切関与できません。相続登記は、相続によって発生した権利関係を公的に明らかにし、登記簿に反映させる手続きです。土地や建物の所有権の移転、抵当権の抹消など、不動産に関する重要な登記がここに含まれます。相続登記には、相続人の確定、遺産分割協議、必要な書類の収集・作成、そして登記申請まで、高度な専門知識と経験が必要とされます。行政書士は、これらの手続きに必要な書類作成のサポートはできる場合もありますが、最終的な登記申請と登記完了までを担うことは法律で禁じられています。

相続手続きには、不動産登記以外にも様々な業務が含まれます。例えば、遺言書の解釈、遺産分割協議書の作成、相続税申告、預貯金解約、各種保険金の請求などです。これら全てにおいて、行政書士が関与できないわけではありませんが、業務範囲には制限があります。

具体的に行政書士ができない相続手続き、または、慎重な対応が必要な事項をいくつか挙げます。

• 裁判手続きへの関与: 相続に関して、裁判が必要となるケース（例えば、遺産分割協議がまとまらない場合）があります。行政書士は法律相談や書類作成のサポートはできますが、裁判代理人として法廷で争うことはできません。弁護士の代理が必要です。
• 税理士の業務への関与: 相続税の申告は、税理士の専門領域です。行政書士は相続税申告に関する書類作成の補助はできる場合がありますが、税理士の業務を代理することはできません。特に複雑な相続税申告は、専門知識を持つ税理士に依頼するべきです。
• 遺産分割協議の法的有効性の判断: 遺産分割協議は、相続人同士の合意に基づいて行われますが、その内容に法律上の問題がないかを確認することは、行政書士の業務範囲外です。法的有効性については、弁護士に相談する必要があります。
• 複雑な相続案件への対応: 相続財産が多岐に渡る場合、あるいは相続人の中に未成年者や成年後見人がいる場合など、複雑な相続案件は、行政書士単独では対応が困難です。弁護士や司法書士、税理士など、専門家チームによる連携が必要となるケースが多いです。

行政書士は、相続手続きにおける様々な書類作成や手続きのサポートにおいて、その専門性を活かすことができます。しかし、司法書士の独占業務である不動産登記や、弁護士、税理士の専門領域に踏み込むことはできません。相続手続き全体をスムーズに進めるためには、それぞれの専門家の役割を理解し、必要に応じて適切な専門家に依頼することが重要です。 自分の相続案件の複雑さや必要とする手続きを正確に把握し、適切な専門家を選択することで、スムーズかつ円満な相続手続きを実現できることを忘れないでください。 行政書士は、あくまでサポート役として、専門家チームの一員として活躍する存在であることを理解することが大切です。