カウンターの上座はどちら側ですか？

カウンター席の上座、それは一見単純なようでいて、実は複雑な問題です。レストランやバーを訪れた際、誰かと一緒なら「どちらに座りますか？」という問いかけに悩む場面も少なくないでしょう。入口から最も遠い席が上座という通説は確かに存在しますが、それはあくまでも一般的な目安であり、絶対的なルールではありません。実際には、お店のレイアウト、お店のコンセプト、そして参加者間の関係性など、様々な要素が上座の決定に影響を与えます。

まず、最も一般的な考え方として「入口から最も遠い席＝上座」という概念があります。これは、入口に近い席は行き来する人の邪魔になりやすく、また、客席全体を見渡せる席であることから、より目立たない、あるいはプライバシーが保たれにくいという理由からです。特に、複数人で訪れた場合、目上の方や客人を入口から遠い席に案内することで、敬意を表すという側面もあります。これは、日本家屋の座敷においても、入り口から遠い位置に座ることを尊重する文化と通じるものがあります。

しかし、この通説が必ずしも通用しないケースも多々あります。例えば、カウンター席が厨房に面している場合、調理の様子を間近で見ることができる調理場に近い席の方が上座とされることもあります。特に、寿司屋や鉄板焼きなど、料理人が直接客とコミュニケーションを取りながら調理を行うお店では、料理人との距離の近さが、特別な体験、つまり上座としての価値を生み出します。この場合、新鮮な食材や調理工程を目の当たりにすることができるという「臨場感」が、入口からの距離よりも重視されます。

さらに、お店のレイアウトも重要な要素となります。L字型のカウンターであれば、視覚的な中心、あるいはカウンター全体を見渡せる位置が上座となる可能性があります。また、カウンターに仕切りや個室のような空間が設けられている場合、そのプライバシー性の高さから、それらの席が上座と見なされることもあります。

４人掛けのカウンターの場合、状況によって上座は大きく変わります。例えば、ビジネスランチであれば、取引先を入口から遠く、かつ厨房に近い席に案内することで、丁寧な配慮を示すことができます。一方、友人同士であれば、景色が良い席や、会話がしやすい席が上座となるでしょう。 重要なのは、相手への配慮と、その場の状況を的確に判断することです。

最終的に、カウンター席の上座は、決まったルールが存在するわけではなく、状況に応じて判断すべきものなのです。 「入口から遠い席」という一般的な基準を理解した上で、お店の雰囲気、同行者の関係性、そして自分の判断によって、適切な席を選ぶことが、円滑なコミュニケーションと快適な時間を過ごすための秘訣と言えるでしょう。 大切なのは、相手への気遣いと、その場における「心地よさ」を追求することです。 単に「上座」という概念にとらわれず、より柔軟な視点を持つことで、より円満な食事や会話を楽しむことができるでしょう。