従業員が窃盗をしたら賠償はできますか？

従業員による窃盗。企業にとって、それは想像を絶するほど深刻な事態です。信頼関係の崩壊はもとより、金銭的損失、そして企業イメージの悪化といった、多大なダメージを被ることになります。 では、従業員が窃盗を行った場合、会社は本当に損害賠償を請求できるのでしょうか？そして、その請求はどのように行われるべきなのでしょうか？ 本稿では、従業員による窃盗とそれに伴う損害賠償請求について、より詳細に解説します。

まず、従業員による窃盗は、刑法上の窃盗罪に該当します。これは、会社が警察への通報を検討すべき重大な犯罪です。通報は、証拠を確保し、刑事罰による責任追及を可能にするだけでなく、民事上の損害賠償請求においても、強い立証材料となります。 しかし、警察への通報は、企業にとって必ずしも容易な決断ではありません。従業員との関係性、企業イメージへの影響、訴訟リスクなどを考慮する必要があるからです。 通報するかどうかは、窃盗の規模、従業員の職位、会社の規模など、様々な要因を総合的に判断する必要があります。

民事上の損害賠償請求については、窃盗行為によって会社が被った損害の具体的な額を立証することが重要です。これは、盗まれた物品の購入価格、修理費、再調達費用、逸失利益など、多岐に渡ります。 例えば、高価な機械が盗まれた場合、その購入価格だけでなく、修理不能であれば再調達費用、生産停止による売上減少分（逸失利益）なども損害として請求できます。 また、窃盗行為によって生じた顧客からのクレーム対応費用なども、損害賠償請求の対象となる可能性があります。 これらの損害額を明確に示すためには、正確な在庫管理、会計処理、そして証拠の保全が不可欠です。 領収書、在庫リスト、防犯カメラの映像など、あらゆる証拠を集め、詳細な損害計算書を作成する必要があります。

従業員への損害賠償請求は、まず話し合いから始めるのが一般的です。 従業員に事情を説明し、盗まれた物品の返還、またはその相当額の賠償を要求します。 この段階では、和解による解決を目指し、弁護士を介さずに直接交渉することも可能です。 しかし、従業員が賠償に応じない、または話し合いが不調に終わった場合は、裁判という手段も検討しなければなりません。

裁判においては、会社は窃盗行為の事実を立証する必要があります。 防犯カメラの映像、証人証言、従業員の供述など、あらゆる証拠を提出して、裁判所の判断を仰ぎます。 裁判による解決は、時間と費用がかかるため、最終手段として位置づけるべきです。 また、裁判の結果は、必ずしも会社の期待通りになるとは限りません。

結論として、従業員による窃盗は、企業にとって深刻な問題であり、適切な対応が求められます。 警察への通報、損害額の明確な算定、証拠の保全、そして従業員との話し合い、必要であれば裁判というステップを踏むことで、損害賠償請求の可能性を高めることができます。 しかし、それ以上に重要なのは、事前に適切な内部統制システムを構築し、窃盗行為を未然に防ぐことでしょう。 従業員の教育、監査体制の強化、そしてセキュリティシステムの導入など、多角的な対策が不可欠です。 損害賠償請求はあくまで事後対策です。 真の解決は、窃盗行為そのものを防止することにあると認識すべきです。